どうやら私が三成様を起こしに行った所を誰も観察していなかったらしく、私の所為で舞雷様が悲鳴を上げる事態になったことは上手く隠蔽された。舞雷様本人も全く気にしておらず、三成様も私のことなど眼中になかった様子で、全てはこともなく穏便に…?済んだのだった。

「よく三成様に怒鳴られて平気でいるのね。見かけによらず肝の据わった子だこと」
「はあ…」

三成様が怒鳴ったのは私にではなく舞雷様になのだが、怒号だけは聞きつけていた女中頭や先輩らは、私を取り囲んで神妙な顔で私の肝を褒めた。

「…では」
「ええ。貴女には三成様付きになってもらうわ」
「……え?」

これは地獄の幻聴か。

「朝から晩まで三成様に従事しなさい。貴女ならできるでしょ」

いや出来ませんよ、さっきのことは舞雷様が…舞雷様が偶然起きて来て身代りに…なんて言えない……。

「じゃあ、そういうことだから。これで新しい子も辞めずにすむわ〜」

すむわ〜、じゃないだろ!!と怒鳴りたいのを必死で抑え、結局先輩らに逆らうことさえできない臆病鶏心の私は頷くことしか出来ないのだった。



思いもよらぬ幸運で朝一番は助けられたものの、今後のことを思うと胃が痛い。たまたま今回…では済まなくなったのだから。
しかし逆を思えば朝一番から思わぬ幸運を手にした私、今後も幸運が味方してうまいこと事が運ぶのかも知れないと淡い期待を胸に抱き、とりあえず朝餉の前に用事はないものかと三成様の元へ向かった。

「三成様、もうすぐ朝餉の時間ですが、御支度の方は…?」
「舞雷は何処だ」

そりゃ女中ともなれば寝台の整理とか召し物の準備とか、多く仕事はあるものだ。先代に三成様お付きの女中がいないので引き継ぎも何もあったものではないから聞きに行けば、私の質問などまるで無視して凶王は威圧的に問うのだった。

「いえ…私は存じません」
「舞雷にぶたれた頬がまだ痛む…!舞雷を連れて来い!!」

云うなりピシャリと戸を閉め、三成様は部屋に引きこもった。

これはまさか、私の所為で舞雷様がまた怒られるのでは…?そもそも舞雷様が三成様の頬に平手打ちをかましたのも、私が三成様を起こしてくれと頼んだ所為だ。舞雷様の所在が知れないのも私が頼んだ所為でそりゃもう怒られた舞雷様が、拗ねたか怯えて逃げてしまったのだとしたら…。

まずいにもほどがある。

やはり私は幸運だったのではなく不運だったのだろうか。