「謙信様はお優しいのだ。今朝なんか4時にモーニングコールをしてくださったうえ、五分後に迎えにきてくださったんだ!」
「それ嫌がらせだと思う」
「何!?どこがだ?これのどこが嫌がらせなんだ?!」

モーニングコールの後恋人が迎えにきたのだと自慢するかすがだったが、聞いていた舞雷からすればあまりうらやましくなかった。ちょっと可笑しいので指摘してやることにする。

「まずモーニングコールが早すぎるし、5分後に迎えの時点で常識範囲外」
「それは私が早く用意すればいいだけのことだろう!」
「結局一緒に登校してるのは私だし」
「う……」
「上杉“先生”だし」
「それを言ったらお前だってそうだろう!仲は私と謙信様と比ぶべくもないが、石田“先生”と恋仲ではないか」
「な、仲はよろしいし!」
「へーえ。じゃあ石田はモーニングコールしてくれるのか?」
「してくれるよ、7時から。ほら」
「……おい待て舞雷、今8時30分くらいだぞ…なんだその着信履歴」

今度は舞雷の話題になり、彼女が提示した携帯のディスプレイを覗きこんだかすがは絶句した。
7時から開始という石田からのモーニングコールは、まだ1時間30分が経過した頃だというのに、既に画面いっぱいに“三成さま”の文字が並んでいたのだ。良く見ると5分ごとに。
正直かすがは引いた。

「スヌーズ機能か、石田は!というかストーカーじゃないか気持ち悪!!」
「き?!気持ち悪いとか言っちゃいけません!どこも気持ち悪くない!」
「ちょっと履歴を見せてみろ!……私昨日夜の11時頃電話した…ような気がするが…気の所為?」
「貰ったよ、話したでしょ」
「それが履歴から消えて全部石田になってるじゃないか!気持ち悪!」
「ま、まだ言うか!」

少しの興味本位でメールの方もチェックしてみたい気もしたが、かすがは辞めておいた。電話でこれならメールの方が凄いことは明白。
とりあえず画面を見るとサブいぼがたつので携帯を舞雷に返す。

「…聞くまでもないだろうが、メールの頻度はどのくらいだ?」
「………電話の4倍くらいかな」
「4倍?!気持ち悪!!」
「もう3回目ですけど!!」

見ても見なくても同じだった。

「くそっ…謙信様はメールが苦手で、私の方はやりとりが少ない…」
「三成様も苦手だよ」
「4倍なのにか」
「まあメール自体の数は4倍でもさあ…こんな感じだし」

舞雷は一番新しく受信した(2分前)メールをかすがに見せた。

『遅い』

表示文字が小さく設定されているおかげで余計虚しい。

「いつもそうなのか?」
「あっメール来た…ほら」
『遅い!』
「びっくりマークつけただけだろ!」
「でもそんな遅いかな…っ、あれ?」
「ん?どうした?」
「……そんなお喋りしてたっけ…」
「……8時…50分?」

実は、二人の歩みは少し前から止まっていたのだ。
二人のいる場所から学校まではどんなに全速力で走っても20分はかかる。
確実に遅刻だった。

「「やばい!!」」

恋人が教師だと色々楽もありそうなものだが、逆も多い。
遅刻常習犯はろくに叱らないのに、恋人のたまの遅刻は激しく怒るのが上杉&石田。

「嫌だー!謙信様の冷やかなお叱り!4時にモーニングコール貰ってるのにー!!」
「私だって嫌だー!三成様に怒鳴られるの本気で怖いんだぞー!!」

二人は、無理なんだけど悪あがきとばかり走り出した。


のろけのろけて