「伊達の独眼竜が、是非お前を正室にと言ってきた。無事縁談がまとまれば奴は豊臣に、」
「だが断りますお父さま!」
「条件のみならず、見た目も悪くないと思うが、我が娘よ」
「だが断りますお父さま!」
「むぅ……」

軍の利を考慮すれば、これは良い縁談なのだがあいにく私は父親想いではなかった。
それに豊臣は私の政略結婚に頼る程弱小ではないのだからして、わざわざ私が心を砕いて嫁にいく必要もない。

「実は同時に真田幸村からも縁談の申し出が……」
「お断りですお父さま!」
「……舞雷、それでは嫁に行きそびれてしまうではないか」
「舞雷にはもう心に決めた方がおります故!」
「なんと!」

お父様は動揺し、机を拳で粉砕した。
それに驚いた半兵衛様が顔をあげる。

「どうしたんだい、秀吉!すまないが聞いてなかった」
「舞雷が…どこぞの馬の骨に恋を!」
「なんだって?!」

まだ相手の名前さえ出していないのに、お父様は馬の骨だと決めつけて、半兵衛様は信じた。

「舞雷、それはいけない!君は上玉だ!馬の骨にくれてやるには実に惜しい!」
「半兵衛さま…何か言い方が気になりますが、とにかく私はあの方命!」
「…まさかとは思うが我が娘よ。そやつ、名前の頭に『み』が……」
「ええ、つきますよ」
「なんと!!」
「舞雷……悪趣味だ!僕は認めないよ!」

何故か二人は興奮して、さっきお父様が壊した机の破片を更に攻撃した。
おかげで椅子に座る私たち3人の間には、粉状と化した机が散らばり、酷い光景だ。

「悪趣味って!あんなにステキな人いません!」
「仮に夫婦になったとて裏切られるのは目に見えている!」
「へ?まさか!裏切られるなんてこと絶対ありません!」「だから駄目だと言うんだ!このバカ正直娘め!我が娘が無様に棄てられるとわかって嫁に出すはずもない!」
「そうだよ舞雷、君は人を見る目がなさすぎる。相手は僕たちが探すから」
「嫌!私は決めてるの!いくら反対されても揺るがない!」
「よりによって明智ではお前の意思を尊重してやれん」
「え?」
「だから明智は駄目……って、違うのかい?その表情は……」

明智って、誰?

私が呆けると二人は同時に深い溜め息をつき、机に膝を突こうとして不審な動きをした。

「何だ……父はてっきり明智かと」
「僕もだ。しかし舞雷…一体誰に恋してるんだい?名もなき馬の骨じゃあ…反対は必須だ」
「…三成さま……」
「「なに?」」
「三成さまです…舞雷の惚れた殿方は!ああ恥ずかしい!…ってお二人共?」

暴露した瞬間、二人は石像のように固まってしまった。
全く動かないので顔の前で手を振ったりするが反応が薄い。
半兵衛様は手を叩いたら我に返り頭を抑え、お父様は頬をつねってみても戻ってこない。

「全然気がつかなかったよ…まさか三成くんに惚れてたなんて」
「素敵すぎて死にそうなんです半兵衛さま!舞雷は絶対三成さまに仕えます!他へ行けなんて聞き入れません!」
「……個人的には賛成だけどね、秀吉が固まったままだよ…」
「お父さまぁ〜!お願いですから三成さまに舞雷を呼び捨てにするよう命じてください!まずそこからです!」
「…………」
「お父さま―――!!」

興奮のあまりついお父様の顔面に拳を叩き込んだ所、お父様はようやく戻ってきた。
そして強烈にでかい声で叫んだ。

「なんと、三成!!!」
「………え」
「あ!三成さま〜!!」

何かの用事か、ちょうど現れた三成様は、いきなりお父様に名前を叫ばれてポカンとしている。

「いいでしょうお父さま!三成さま凄く馬の骨とは程遠いですよ!」
「う、うまのほね?秀吉さま…私が何か…?」
「三成さま〜!」
「何です舞雷さま」
「さまなんてイヤー!お父さま、さぁ命じてください!舞雷を呼び捨てにって!私がお願いしても聞いてくださらないから!」
「我が娘よ…三成に惚れておったか」
「な?!秀吉さま何をおっしゃいます!舞雷さまが私…などと!」
「好きなんです三成さま!猛烈に!」
「なっ、なっ……!」

驚きまくった三成様は手にしていた書簡をいくつか床に落とし、救いを求めるように半兵衛様を見た。
半兵衛様はもういつも通りで、にこにこしている。

「いいじゃないか。舞雷は言い出したら聞かないし、三成くんも満更じゃあなさそうだ。ねぇ秀吉?」
「ん……うむ…。三成なら舞雷を預けられるか…しかし舞雷が三成を怒らせた時、尻をぶたれそうで心配だ」
「わ、私をそんな風に見ていらしたのですか!」
「まぁ、やりかねないね」
「半兵衛さま?!」
「問題ありません!舞雷は三成さまにぶたれるなら幸せでございます……!」
「舞雷……そこまで三成を。良いだろう…」
「やった!」

見事私はお父様と半兵衛様の許しと祝福を得ることが出来た。

しかし。

「舞雷…………さま」
「さま取れとお父さま命令ですよ!」
「む…わかってます。舞雷、………………さま」
「なぜ?!一向に敬語も直してくださらないし!」
「秀吉さまの姫様なので…」
「三成さま…!舞雷は亭主関白が好きです。ついでにMです!それでは駄目なんです!」
「……えむ?」

我々の愛は前途多難だ。


しあわせになろう