壁と両の腕に閉じ込めた舞雷の頭にキスをする。
逃げだすこと叶わぬ舞雷は肩を竦めて怯えていたが、我が同情することはない。
時はまだ放課して数分、多く生徒らの雑踏騒がしき廊下でのこと。

「我はそなたを愛している。」

舞雷の耳に唇を当てながら告げる。
恐らく、我らを取り囲むようにできた野次馬の類らは、静かに吐き出される我の言葉と動向を見守っている。
しかし愚民共の耳に、目に、我の告白が飛び込んだとてなんだというのだ。
緊張でがちがちに固まった憐れな舞雷は今にもしゃがみ込む寸前であった。

「あのっ…、」
「愛していると言っているのだ、然るべき返答があるだろう」
「…私…付き合ってる人、が…、ッ!」
「はて、聞こえぬ。もう一度言ってみよ」

唇の先にあった舞雷の耳に舌を這わせ、くだらぬ返答を押し殺す。
そもそも舞雷に交際相手がいることくらい知らぬ我ではない。だがそんなものはいないも同然、我の前では霞むべき。
舞雷は我のものだ。

ずり落ちていく舞雷の体を乱暴に引き上げ、掴んだ胸倉はそのままに睨みつける。
舞雷は目に涙をためて我を見上げた。実に嗜虐心をくすぐる目だ。

「ゆっ…赦して、毛利君…」
「我は波立っておらぬ。赦しを乞うのはおかしかろう?」
「………」
「ただ受け入れればよい。大人しく我のものになればよいのだ」
「だめ…」
「………」
「なれないの、だから、赦して…」

とんと理解できぬ返答だ。

「あの出来の悪い男が貴様と吊り合う筈もない、我では不服と申すのか」
「そんなっ、そうじゃなくて…、私、ちゃんとあの人のこと好きなの。だから…」
「っ、くだらぬ、実にくだらぬ戯言だ!」

強襲してくる苛立ちに任せ、胸倉を掴んでいた手を首に回す。
息苦しさで苦悶の表情を浮かべる舞雷に愛しみと憎しみが同時に沸いた。

「……ならばあの男を処分する」
「え……?」
「死人に恋はできまい…?」
「……うそでしょ?そんなこと、出来る筈ないよね…?」
「…………」
「……ねえ…」

嘘なものか。
邪魔なものは処分する。それが例え人間でもだ。
我にはそれをいとも簡単に遂行する術があった。

「や、やめて…」

舞雷のみならず、この場で聞く耳を立てている野次馬共にも聞こえただろう。
その誰もが我の言葉を嘘とは思わぬ。この中に舞雷の交際相手が紛れていたら滑稽だ。

「よいか舞雷、我とそなたは三百年の縁。切れぬ間柄ぞ」


人壁も死すべき