光を宿さぬ暗い瞳、乾いて土気色をした肌、身体から生える幾多の矢。触れればぞっとするほど冷たく硬い。
私の舞雷は戦場の片隅で一般兵に交じって死んだ。自軍、敵軍、双方の死体が散らばる場所に打ち捨てられた愛しい舞雷。鎧も纏わず刀も持たぬ、ただの女と見ればわかる。だが誰もが容赦しなかった。

(矢を抜いてやれ)
(嫌だ、舞雷の傷口からはもう、血も噴き出ない)
(だがこれではあまりにも哀れだ)
(判っている、しかし舞雷の傷を抉れと?)
(血も噴き出ないと己で言った)
(そうだ、そうだ、)
(舞雷は、もう死体なのだから)
(やめろ、やめろ、やめてくれ、)
(私は自分で思っている筈だ。せめて綺麗に弔ってやろうと)
(嫌だ、舞雷は死んでいない…)
(…一体どうしたんだ、私は)

大体見つけるのが遅すぎたのだ。
こんな冷たく固まってから私の腕におさまるなど。しかしどうしてお前は死体なんだ、兵士でも忍でもないただの女がどうして戦場で転がっている。矢の的となり弾丸を浴び、鉄の傷を受けているのは何故なんだ?私はお前を城で愛でていた、お前は綺麗に着飾って私を出迎えればそれで良かった、それだけで良かった筈なのに、

「矢を抜いてやれ」
「…おのれ、まだ言うか…」
「我は今来たばかりよ…三成…誰と会話していた?」
「…………」

何故お前は死体なんだ。

「舞雷を返してくれ……ッ!」
「………」

土埃と血に塗れた舞雷を抱き起こす。死臭も気にせず抱き締めれば、刑部の手が伸びて来て舞雷の瞼を降ろした。体を穿つ弓を掴む包帯に巻かれた手が見える。私は咬みつくようにそれを拒んだ。舞雷が痛がる。

「…ぬしもとんと憐れよな……」
「煩い、舞雷は死んでなどいない!」
「肯定と否定を繰り返せど何も変わらぬ。早く舞雷を弔ってやれ」
「やめろ、やめてくれ…」
「誰がぬしを責めような。舞雷は裏切らぬ、案ぜず寝かせてやるのがよかろ」
「違う、違うんだ…ッ、」
「………」

何故お前は死体なんだ。

「落ち着け、三成」
「………」
「腐るまで抱いているつもりか?」
「………」
「それでは舞雷が憐れよ」

何故 お前は 死体なんだ ?

「もうすぐ日が暮れような」
「………」
「こんな場所から早く連れだしてやれ」
「………」

お前は腐ってゆく、私を置いて。


腐死