「貴様はつまり、」
「そう、半兵衛様が好きだった」

妙だとは思っていたんだ。秀吉様にさほどの忠誠もない癖に半兵衛様にはやたらとへこへこして、生意気な筈なのに半兵衛様にはやたらとにこにこして。私の方が立場は上だというのに、舞雷は一度として半兵衛様に見せるような態度で接してくれたことはない。妙だと思う以前に、不服だった。私はこの生意気な女を愛していたのだから。

半兵衛様が亡くなり、当然私も苦しんだ。苦しんだが、この女程ではない。いつもの覇気など微塵も消え失せ秀吉様の徴集にも応じない。熱もないのに風邪だと言い張り職務をさぼって幾日か。咎めることもしない秀吉様に代わって問い質せば、舞雷は半兵衛様を男として好きだったと告白した。私は胸がきりきり痛んだ。

「もうどうだっていい……」
「何を言い出す。貴様は豊臣の要だ。半兵衛様がそう育てたのだから」
「…………」
「私と口をきくのも終いか?」
「……秀吉様は元々私を認めてなんていないのよ、今まで軍にいられたのも半兵衛様あってこそ。あの方を喪った今…私が望んだって前のようにはいかないの」

舞雷が自嘲気味に発する独白めいた言葉には一理あった。あったが、それを認めてやるのは非情すぎる。しかし嘘ではない何かでこの女を慰めるには、私にはこれしかない。

「私は、貴様を豊臣に必要な武将だと思っている」
「………そう…」
「半兵衛様と同じようにな…」

半兵衛様。
舞雷は名を聞いただけで心を沈めていくように見えた。ぐちゃぐちゃに乱れた布団の中でぐったりしている舞雷、傍らに胡坐をかいて座る私。どちらも半兵衛様を大切に思っていたことは確かだ。だが性が違えばこんなにも、喪った悲しみの深さは違ってくるのか。自分は精一杯悲しんでいると感じていた己を恥じたい程に。舞雷は誰よりも悲しんでいる。

「……近いうち大事な戦がある」
「………」
「貴様も出る筈だった」
「………嫌よ、三成。貴方が何を言いたいのかは判る。だから、言わないで。聞かなくても答えるから。嫌よ」
「…あの方の分まで戦おうとは思わないのか?」
「……貴方はそう思っていいんじゃないの…。私は、そうじゃない…」

なら何だと言うんだ。

つまり私は舞雷をどう励ませばよいのか判らなかった。自分の考えるようにはいかない。ならこのままずっと、布団の中で過ごすのか。まったくの健康体が自ら体を貶めて半兵衛様のようになろうというのか。私から言わせればそんなことは許せない。だが舞雷は戦おうとはしない。だったら、どうしたらいい。

「このまま何もせずそこで腐っているのか?」
「………」
「いつまでもそうしていられないのは判るだろう」
「………」
「…戦には出なくていい、貴様の分も私が斬ればいいだけだ。だがせめて他の、」
「放っておいて、三成…!」
「………」

力なく倒れていただけの舞雷が拳を握りしめて私の足を一発殴る。鈍い痛みが走ったが、そんなことはどうでもよかった。無気力に冷めた表情のままだった舞雷は涙を浮かべ弱々しくかぶりを振る。そのままぐちゃぐちゃの布団をひっぱり顔を埋めた。(私が抱き締めれば舞雷の心のかけらでも救えるのか、だったら、)

「…舞雷、」
「何も出来ないのよ、生きることも、死ぬことさえも。莫迦みたいでしょう、好きな人がひとり死んだってだけなのにね。おかしいでしょう、本当に何も出来ないの。笑えばいいわ、笑って、ね?なんて弱い心の持ち主なんだろうって、貴方に嗤って欲しい……!」
「……落ちつけ、私は、」
「        」
「…………」

私は、声を殺して泣く舞雷を布団越しに抱き締めた。


私の熱がお前を救うことを