「我に嫁げ。さもなくば家族は死罪ぞ」

言い渡された言葉の重さに私も家族も絶句した。
突然現れた毛利様は引き連れた兵らに命じ、私の家族を捉えると、私の目の前で縄と枷をかけさせた。
始終私を冷たい目で見つめていた毛利様は私からの肯定がないことに腹を立て、縄にかけられた両親を蹴り飛ばす。

「返事が聞こえなかったが」
「あ、あ……!」
「…そうか。こやつらを斬首に処す!即刻準備をせよ!」
「はっ!」
「っ、待ってください!」

両親が兵士らに連れられかけた時、ようやく私は毛利様の前に跪いた。

「私…舞雷は、毛利様に嫁がせていただきます。ですから、両親は…」
「もう遅いわ。一瞬の逡巡も我の前では命とりよ」
「どうか、どうかお願い致します…!」
「…………」

私は頭を床につけて決断を待つ。毛利様はしばし黙り、恐らく私を見下したまま何かを考えていた様子だったが、やがて兵士達に処刑の準備をとり辞める命令を下した。
その言葉が耳に入った瞬間、私は身に襲いかかった強烈な安堵から、己の体を支えることが出来なくなる。きちんとした土下座の姿勢を維持できなくなり、その場にへたりと座りこむと、毛利様が鼻で嘲笑するのが聞こえた。

「たかが両の親ごとき、身売りしてまで助けたいか。我にはとんと理解できぬな」
「……っ…」
「今生かしておこうとも貴様は二度と会うことはない。身柄を解放することもせぬ」
「、なぜです…?」
「わからぬか。こやつらは人質よ。貴様が大人しく我の妻として生をまっとうするまでの、な」

毛利様は暗に死ぬまでと答えたのだ。
安堵がため失った力が絶望の意味で失われていく。

私は両親を捨てねば貴方の元に戻れない。
愛しい人、貴方を思えば全てが死んでしまう。憐れ囚われの両親も、恐らく貴方も。そしてきっと、私も。

「よいか舞雷、貴様は我の正室ぞ。毛利家繁栄の為多く子を産め、側室は娶らぬこと忘れるな」
「はい……」

ああ愛しい人、貴方を思いこの身を裂こうと幾度思ったことか。
しかし私には出来ぬのです。それは追随する両親の死を恐れてではなく、ただ、ただ……

「愛しき我が日輪の姫よ…」
「………」

この方の情愛に心が負けそうになるからなのです。


奪う情愛