はっきり言って全身打撲どころではない。これは折れている。情けなく地にくたばり我が動けずにいるのはその為だ。右足…どころか左足まで折れている。いくら我でも唐突な落下では、猫のようにはなれぬものよ……。
「元就様が船から落ちられたー!!早く手当てを!!」 「ならぬ、叫ぶでないわ!船から落ちたなどと!」 「で、ですが……」 「我は落ちたのではない、落とされたのだ!舞雷を連れて来い!」 「は、はい!」
両足が骨折の上全身打撲ともなれば激痛も酷いものだ。だがそれより舞雷のことが気になった。 何故あやつは我を船より突き落としたか。何をどう誤れば、夫を出航前の船から陸へ落そうと思うのか。 最愛の妻と思い背を許した我の信頼をこんな形で潰されてなるものか。
「元就様…舞雷様をお連れ致しましたが…」 「さがれ!!」 「はっ!」 「どうでした、元就様!落ちゆく感覚は!」 「くだらぬことをほざくな!全身打撲の上両足を骨折したわ!!」 「それは結果でございましょう。私が問いたいのは、落ちてゆく感覚です!」 「…気がふれたか…舞雷…」 「まさに恋でしたか!?」
全く意味が解せん。 舞雷が我の暗殺を企てて逃亡したのでなかったのは良かったが、しかしどうしたことか、妻の言うことの片鱗も理解が及ばない。 呆れてものが言えぬようになれば、思い出したように痛みが脳をきりきりと支配する。
「舞雷……夫を介抱しようとは思わぬのか」 「私、元就様に恋した時…とても言葉で言い表せない感覚に陥ったのです」 「そうか我も同じよ早く担架を持て」 「あの時の幸福なときめきをもう一度味わいたくて…!」 「それで我を殺し新たな男へ鞍替えしようと思ったか」 「え?違います、何をおっしゃるのですか!元就様もまたあの感覚を味わいたいと思ってらっしゃると、舞雷めはお手伝い致しましたのに!」 「………」
これは、我が負傷しているが故に理解できぬということなのか?
「我は…そなたと恋に落ちたとき、船から落下した覚えなどない」 「そう、恋とは落ちるもの!」 「………」 「なので落ちていただきました」 「………」 「初々しい恋の感覚は戻りましたか?」 「それどころか恋の終わりが見えたわ…!!」 「え!!」
前から頭は良くな…馬鹿と思っていたがこれほどとは! もし足が折れていなければすぐにでも平手打ちし、踏みつけて言い聞かせてやるものを!
「舞雷!我は、両足の骨が折れたのだ!」 「あ、あら…」 「貴様に殺されると思うたわ!!」 「そんなつもりは…ぐすっ」 「っ、わかった、わかった、もうよい」
いや、よくはあるまい我よ。
「我はそなたに介抱されればそれでよい」
いや、よくは……!
「とにかく部屋へ連れてゆけ。兵士に命じて担架を持たせよ」 「はい…」 「だから泣くでない…」
…………。
それほどにその涙は強いか
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