仲のよいメンバーで集まり、お世辞にも綺麗とは言えない床でのランチタイム。適当に購買で買ってきたパンをたいらげて、紙パックのいちご牛乳を吸い込んでいた時だった。

「朔さん、石田君と付き合ってるって本当なの?」
「え!?」

一体どこからそんな情報が漏れているんだか。
いきなり私に話しかけてきたのは、鈴木だか…田中だか………。名前を忘れるくらい疎遠な人物であることは確かで、クラスも同じではない女子だった。ランチタイムは教室など解放されているので、他クラスの彼女が此処にいること自体は不思議ではないのだけれど、投げかけられた話の内容が内容だ。
驚いた私は口内に残る薄ピンク色の甘い飲み物をあろうことか吹き出し、目の前に座っていた元親の弁当を見事に汚した。

「おわっ、舞雷こらあぁ!!」
「ごっめん!」
「いや、いいけどよ」
「いいのなら騒ぐな」
「ごめん孫市にもちょっと飛んだ気がする…」
「気にするな」
「わあ…元親より男前だわ……」
「ちょっと、朔さん?」
「あ、ごめん」

思いのほか元親は気にしていない様子だったし、孫市も赦してくれたので私はほっとした。束の間、つい失念していた来訪者が催促を入れて来る。
ただ、私は唐突なこの質問に、肯定も否定もくれてやるつもりはなかった。だから、どうしてそんなことを聞くのか訊ねてみようと口を開く。

「なんで、そんなこ「おい朔。貴様の吹き出した飲料の飛沫が我の足を汚した。謝罪せよ」……ゴメンナサイ」

が、またいちご牛乳に戻った。
いつもランチタイムを共にする仲のよいメンバーとは、先の元親、孫市、そしてこの毛利君だった。しかし毛利君は孤高を決め込んでいるので汚い床には座らず、ちゃんと自分の席に座っている。私たちはその足元に群がっているというわけだ。私のすぐ左には毛利君の机の足と、本物の足が並んでいる。確かにかかったかもしれない。

「貴方様のおみ足に私の汚い薄桃色の液を飛ばしまして申し訳ございませんでした!」
「フン」
「……朔さん、いい加減にしてくれない?」

私がふざけた謝罪を並べていると、いい加減焦れた来訪者は私の肩を掴んだ。隠す様子もなく苛立ちが滲み出ている。

「石田君と付き合ってるの?付き合ってないの?それだけ答えればいいんだから、さっさとして」
「…何でそんなこと聞くのかを教えてくれたらすぐ答える」
「…………」

結構殺伐とした空気になっているのだが、毛利君は既に本を取り出して読書に耽り、元親はこっちを見てはいるが私のいちご牛乳がまぶされた弁当をガツガツ食っている。孫市に至っては腰を上げてどっかいってしまった。せめて見守ってよお姉様。

「私が、石田君を好きだから」
「ヒューウ」

しばし考えた後、彼女は正直に答えた。それを聞いた元親がご飯粒を飛ばしながら野次をいれる。睨まれるとすぐ咳払いして弁当をたいらげにかかったけれど。
ちなみにその石田君というのは同じクラスなのでこの教室内に今もいる。7日に1回くらいは私と毛利君の間に座っているのだが、今日はそうじゃない日だ。

「ごめんね、その噂は真実です」
「………」

そう、その石田君というのは同じクラス…以下略、加えて私の恋人だった。お互いに人前でベタベタするわけでもないので、特に噂になることさえなかったのだが、何故今になって浮いて来たのだろうか。
噂を肯定すると、彼女は私の肩から手を放して、何とも言えない苛立ちか憎しみか嫉妬かといった深い目で睨んでから、逃げるように去って行った。

「おいあいつ、石田が好きだとよ!」
「聞いたよ。あーあ…私いじめられるかも…」
「何の話をしていた?」

この輪に加わらずとも教室の自席にはいるわけで、その石田君もとい三成は、視覚的に私たちが何をしていたか知っている。
不審な女が私の肩を掴み、睨み、逃げて行くのを見て気になったのだろう。めずらしく寄ってきて、孫市がいた場所に座った。

「三成のことが好きなんだって。どこから噂がたったのか知らないけど、私と三成が付き合ってるの知ってたみたい。本当なのか聞かれた」
「………」
「睨まれたから、いじめられるんじゃないかって思った」
「肩を掴まれた挙句睨まれただと?それで、長曾我部と毛利は何をした」
「ブッ」
「え…毛利君は見ての通り本を読み、元親は弁当を食ってた」
「………そうか…」
「おい石田、舞雷を守ってやるのは俺らの役目じゃねえだろ?そりゃてめぇの役目だろが!毛利も何とか言え!」
「長曾我部は朔の口から出た飲料のかかった弁当をうまそうに食っていた」
「何だと…!!」
「そういうこと言えってんじゃねえよ!!おい何だその目…何そんな怒ってんだよ、やめ、やめろって、舞雷助けやがれええ!!」
「どうどう!」

怒った三成は今にも元親を殺してしまいそうだったのでなんとか押さえこんだ。けれど噂の出所が元親だと判ると、もう止めようがない。

私は後日例の彼女と顔を合わせたが、恐れていたことは何もなかった。なんでも、元親に制裁を加える様子を見て「あの人怖い」と思ったらしい。

まあ、そんな恋の終わりなら悲しくなくていいかと、私は思った。


貴方が獰猛でよかった