最近妙に天気が悪く、お日様だけが顔を出さない。言わずと知れた“日輪まにあ”の元就さんの機嫌が悪いのは当然だけれど、昨日の朝から様子がおかしくなってしまった。いつもの聡明な頭脳はどこへいったの?これは本人なの?と疑問に思ってしまうくらい、一言でいうと「アホ」になってしまったのだ。

「元就さん元就さん、長曾我部さんが・」
「舞雷これを着るがいい!」

と私の言葉など聞きもしないで突き出してきたのは白い布とヒモ。意味が判らず眉を寄せて台詞を考えていたら、元就さんは実に満足そうな顔でそれを私にかぶせた。突然布に視界を奪われ混乱する私をよそに、手際良く紐で首を絞めてくる。勿論殺そうというのでなく痛みもないけれど、完全に布にくるまれて結局呼吸が苦しい。

「晴れ女であるそなたが扮すれば完璧ぞ!!」
「何の話!?なにか新しい性癖に目覚め…」
「たわけが。それは“てうてうぼうず”よ!」
「て、てうてう?てるてるでしょ!照る照る!!」
「だっ黙れ!!我はそう言った!!」
「絶対間違ってたよね!」

あろうことか私で人間てるてるぼうずを作成した元就さんは、結局間違いを認めることなく会話を打ち切ってしまった。しかもこっちが視界を奪われ身動き出来ないのをいいことに、どこかに吊るそうとしていたので、それは全力で拒んだ。

「元就様、長曾我部元親が同盟の申し入れに来ています!しかも、攻撃してきています!」
「照日大鏡を準備せよ!!」
「昨日も同じ事が起きて兵士が数十人倒れましたので恐れ多くも申し上げます!この天気では機能致しません!」

そう、てるてるぼうずにされたおかげで忘れていたが、長曾我部さんが来ていたのだ。私たちがこんなことをしている間に彼は軍を進めていたらしい。
兵士が言うように昨日も同盟の件で石田軍が来て、元就さんはこの悪天候に照日大鏡を使用、目前に迫った凶王を前に「日輪」という単語を十回は吐き出して、ものすごく可哀想な目を向けられていたものだ。

「今日はてるてる舞雷がいる。日輪も顔を出す筈ぞ」
「それどころか雨降って来たよ元就さん。布ごしに冷たいもの。というかてるてる舞雷って変な名前で呼ばないでね!」
「雨だと…?そんなものは、まやかしだ。てるてる舞雷の前に雨雲は消え失せる!!」
「…何馬鹿なこと言ってんだぁ?毛利よ」

これは昨日と全く同じ展開だ。
元就さんが指示を出さないものだから、相手はさっさとここに到達する。いつの間にか現れた長曾我部さんは白い布で覆われた私と変なことを口走っている元就さんを見て、さぞや驚いたことだろう。

「長曾我部さんごきげんよう」
「おう。とっとと離縁した方がいいぜ、なんだそのカッコ」
「脱がせてくださいませんか!」
「いいぜ、お安いご用だ」
「なっならぬ!我のてるてる舞雷に触れるでない、長曾我部貴様っ、それは我のてるてる舞雷ぞ、聞いているのか!!」
「聞いてんよお日様馬鹿。知らねぇのか?晴れ女に服を着せると雨が降るんだぜ?」
「え」
「なんと…!」

確かに私、晴れ女と言われることは多かれど。

長曾我部さんはさっとてるてるぼうずの布を脱がせてくれたが、久しぶりに見たそのお顔にはいやらしい笑みが浮かんでいるように見える。
傍らに立っていた元就さんは感心した様子で私を見ていた。つまり、つまりだ。長曾我部さんは元就さんをからかいがてら、ちょっといやらしいことを企んでいる。
そして元就さんは、信じた。

「よし舞雷、すぐに衣服を取り払い、丸裸で日輪を呼び寄せるがよい!」
「馬鹿じゃないの!?」
「それを俺とあんたは酒でも交わしながら見守るのが、日輪招来の正しい儀式だぜ毛利!」
「酒を持て!!舞雷は早く裸にならぬか!!」
「長曾我部さんなんてことを言うの!!今の元就さんアホなんだから信じちゃうでしょ!!」
「そうみてぇだな。おら脱げや!」

ニヤニヤ顔と真顔を前に私が脱いでやる筈もなく。


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