「うわぁ何で!?何でなの!?」
「黙らぬか!鼓膜が破れるわ!!」
「だって!!」

毛利君は私の叫び声に激昂して怒鳴ったけれど、本当に怒鳴りたいのはこっちの方だ。いくらおしとやかさに定評のある私だって、いきなり性格の悪さに定評のある毛利君に押し倒されれば、パニックを起こして大声のひとつふたつ上げてしまう。

私が押し倒されているのは保健室のベッドだった。どうしてこうなったのか?私も毛利君も偶然保健室にきて、偶然ベッドサイドに並んでいて、「おい」と声を掛けられた次の瞬間にはこうなっていた。

「こ、転んだの?!」
「我が無様に転ぶ筈もなかろう。それに、あの立ち位置から、転倒ついでに貴様をベッド上に組み敷くことなど不可能ぞ」
「じゃあ何なの!?やっぱり、その…!!」
「案ずるでない。出来る限り優しくしてやる」
「ぎあぁああぁあぁああ!!誰か―――ッ!!」

こんな天気の良い日に学校の保健室(当然出入り自由)で恋人でもない男に犯されそうになったとなれば、私のこの断末魔の雄叫びも可愛いものに思うだろう…。

「ちょっ、待とうよ!イヤだってば、何で!?ねぇ毛利君もっと遊んでそうな子選んだら!?それとも私そう見えた!?ねえーー!!」
「先の叫び声で我の鼓膜は破れた。もう何も聞こえぬ」
「聞こえてるでしょ!!あっ、駄目だって、スカート捲らないで〜!!」

私が黙らないので心底嫌そうに毛利君は眉間にしわをつくっている。でも体制は変わらず。手も止まらず。

「何で、何でなの!?」
「我は男ぞ。据え膳食わぬは男の恥というもの。据えられた膳が好いた女となれば尚更、な」
「はい?!」

男?そんな綺麗なお顔してか。据え膳?ベッドサイドに立つだけで私は据え膳と化すのか。好いた女?…………。

「ようやく大人しくなったか」
「………ぎ、」

ぎゃああ。


やめて、重ね重ね