「捨て駒」「死ね」「散れ」「路傍の石」うんぬん…を聞いた舞雷は絶望的な気分に陥った。命ぜられるがままに船に乗せられ、瞬く間に始まった海戦にも戸惑っているのに、自分の命運を握っている男がこの非情さでは当然である。

「長曾我部軍の砲撃により、船が3隻沈みました!」
「くだらぬことを報告に来るな、無能めが」
「も、申し訳ございません…」
「それで長曾我部の船は沈めたのか」
「そ…それが……」
「使えぬ駒共め…!」

こんな会話が舞雷のすぐ目の前で繰り広げられているのである。座にふんぞり返っている男を前に、報告に走って来た兵士は額を床にごりごり磨りつけて、恐怖に震えている。

「砲撃で貴様らが散ろうがどうでもいい。早く勝ちの報告を持て」
「は、はっ!」

逃げるように去って行く兵を見送りながら、舞雷は本気でどうしたものかと悩んでしまった。兵がいなくなった今、船のこの一室、彼女と毛利の二人きりだ。そもそも何の目的で連れて来られているのかも判らないのだから、考えれば考える程舞雷は不安に陥って行く。

「……さて」
「!!」

四方から聞こえて来る砲撃音や雄叫びよりも、静かで感情のない毛利の声に舞雷は怯える。
毛利は舞雷の方を向いて、目を細めた。

「思わぬところで長曾我部とかち合ってしまったが…奴の相手は駒共にさせればよい。我は当初の目的を果たすまで……」
「ひっ!」
「……!」

毛利がおもむろに伸ばした手は、舞雷に到達する前に空中で静止した。舞雷があからさまに怯えて丸くなったからである。
……そう、毛利は別に舞雷に酷い仕打ちをしたかった訳ではない。ただ惚れていたから思いを伝えようと船旅に招待したに過ぎなかった。しかしやり方が拉致から始まり、偶然の海戦で冷徹な本性が丸出し。これでは怯えられるに決まっている。

「……(さてどうしたものか…)」

怖がる女の宥め方など、毛利がすぐ思いつく筈もない。


先は遠く