「何故なんだ、舞雷…?一体何故…私でなくその馬鹿を選ぶ…?」
三成は小生の背後に隠れるようにしてしがみついている舞雷を、そりゃあもう泣きだしそうな顔で見つめている。眉尻が吊りあがっている癖に器用に表情をつくるものだ。
なんにせよ、小生から見れば気持ち悪いだけなのだが。
「…てっきり怒り狂うかと思ったんだがな」
「貴様には腸が煮えくりかえる程の憤怒を覚えている」
「……そうかい…」
とにかく、己の身を守るためには、さっさと背中にひっついたままの舞雷を引き剥がし、三成に渡すことだ。しかしこの背中というのが小生にとっては死角。片腕が背後に回れば首根っこを掴めるものの、枷の所為で、精々両の拳を真上から振らせて舞雷の頭をブッ叩くくらいしか出来ない。
「何がどうして小生の背中に抱っこちゃんしてるのか知らんがな、お前さんの男が見苦しくヤキモチ妬いて今にもびーびー泣きそうになってんぞ。聞いてんのか舞雷」
「舞雷早く離れろ!黴が寄生する!」
「か、カビだと!?小生は清潔だ!」
「服の間から蚯蚓の一匹や二匹落ちて来そうな見てくれだ…近づきたくもない」
「言いたいこと言いやがって!!」
「汚馬鹿の分際で私の舞雷を誑かした罪だけはこの手で断じてやる…!!」
「その発言の総てに異議ありだっ!」
ついに三成は舞雷に「行っちゃヤダ」的な顔をするのをやめ、小生に「殺してやる」の顔を見せ始めた。こっちの方が見なれていてある意味安心感があるが、抜かれた刃には危機感しか感じない。
「おいっ、まさかとは思うが舞雷ごと斬る気か?!」
「私は舞雷の身の丈など熟知している!貴様の首を刎ねるだけなら何の問題もない!!」
「ある!大いにあるぞーッ!!」
やたら地面と水平にびゅんびゅん斬りつけて来る三成をどうにかかわすなり受け止め、まだしぶとく背中に張り付いている舞雷を盾にするように(というか盾に)、背を向けてやった。当然三成の猛攻は瞬時に止み、刀は地に落下し、怒りの顔を裏返して気色の悪い顔になった。
「舞雷…!いくら頼んでも私を抱き締めてくれることはないというのに…!」
「…そりゃ、お気の毒なことで」
この後三成が力ずくで引っぺがしたところ、舞雷は爆睡していた。だから静かだったというわけだ。


抱っこちゃん