「ねぇねぇ三成くん、私ねぇ、(白身よりも)キミが好き!」
「!!!!!」
卵の黄身と白身のどちらが好きかをクラス規模で話し合っていたことなど、教室内にいたとて秀吉とか秀吉とか半兵衛のことを考えていた三成の耳に入る筈もない。突然寄ってきた舞雷に満面の笑みでこう言われた三成が驚いたのは当然だ。
「三成くんは?」
「なっ、なっ…」
「な?」
言わずもがな舞雷は卵の黄身と言ったので発音がおかしいのだが、そんなことを今の三成が不審に思える筈もなく、真正面から愛の告白を受けたと本気で勘違いした。
すると不思議なもので、ただのクラスメイトに過ぎなかった舞雷のことが、妙に気になり始めたのである。
今まで愛の告白のひとつも受けたことがないとは云わない。それどころか彼はどちらかというとモテる方だ。だが今まで数多の告白の方法を示してきた女達の誰ひとりとして彼を落とすことは叶わなかった。恥じらってもじもじする様が三成にとって鬱陶しかったからである。だがこの舞雷は恥じらいのはの字もないありさまで、クラス人口も濃密な中はっきりと言ったのだ。満面の笑みで。
……もちろん舞雷は卵のことを言ったので恥じらう必要がなかったからだが。
「わ、私も好きだ!」
「へー!同じだね!てっきり違う方かと思ったのに」
「いや、違ったのだがどういうわけか胸が騒いで…」
「?」
顔を赤くして興奮している三成を前にして、舞雷だけは現状を飲み込めていなかった。しかし彼らを見守っていた、卵談義に夢中だったクラスメイトたちはどうだろう。すぐさまこのありがちと言ってしまえばありがちな聞き間違いを察し、更に三成の中で恋が芽生えたことに戸惑うばかりである。あの難攻不落の城が思わぬ所で落ちたのは見ものだったが、舞雷の言ったのがよもや卵のことだなどと知れたらどうなってしまうのか。
「堪らなく惚れてしまった…!私のものになれ!」
「う、うん…?」
舞雷がようやく会話が噛み合っていないことに気づき始める。
黄身と君の誤解に気づいたのは三成の腕の中でのことだった。


きみ。