「舞雷様、御父上様が、石田軍に…」 「……そうですか」 神は私にどれほどの災禍を積めば気が済むというのか。 醜い咆哮と重い慟哭、炎の燃ゆる音。それらが頭上で犇めき合う中、非力にもがいた城主は遂にこと切れた。私が籠るこの場所は城中の地下、物置にすぎず見つかるのは瞬時のこと。 「あなたも災難ですね、愚かな城に仕えて」 「そんな…私は、舞雷様にお仕えできて幸せでございました」 報告に走ってきたのは長く私の世話係を務めて来た若い女だった。彼女は既にいくらかの傷を負い、その目には確かに痛みと死への恐怖を抱いている。それなのに私を励ますような言葉を選ぶ、その心根の優しさに感服しながら、しかしそれを受け取って彼女を安心させてやることなど、どうして私にできるだろうか。 「舞雷様…貴女は怖くないのですか」 彼女は私の目に絶望こそ映れど、恐怖の影がないことを察した。 「…死が、怖くはないのですか」 「……死は恐ろしい。けれど、私は今それに怯える必要はないのです」 「此処はすぐに見つかってしまいます。城主の娘である貴女は、石田軍の筆頭に引き渡されて…」 「凶王に逢えるから、私は死に怯える必要がない」 「……どういうことです?」 彼女の目に不安が宿る。 「…我々には密にしてきた盟約がある。あの男は…、豊臣への謀反を罰して我が父、我が国を滅ぼせど、私を保護する」 「……なぜです。盟約とは、一体何です!」 「…………それは…」 怒涛の勢いで流れ込んできた石田軍の兵士たちにより私の言葉は終わりを告げた。すぐさま私たちを鈍色の刃が取り囲み、何の静止もなく彼女は殺された。そして私は悲しみを思った。 彼女への黙祷を終えて瞼を開けば、目の前には血を浴びた凶王。 「これはお前にとって一番惨い展開だ」 「…惨過ぎます。一番考えたくなかった…」 「私を怨むな。豊臣に謀反するが悪なのだ。私はそれを罰したまで」 「判っております…だから、父や…彼女や…、皆の敵と思うても、拳一つ振り上げませぬ」 「……舞雷」 凶王の手が伸びて来る、嗚呼それが罪を罰する般若のものなら私は、私は。 「誓いを果たそう、舞雷。私と来い」 「…はい」
我らは愛し合っていた
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