「ぬしはその女を好いているのだな」
「……気でも狂ったか、大谷」
同盟後暇があれば寄ってくる大谷の前で、毛利は舞雷という女を後ろ向きで馬に括りつけていじめていた。馬の尻を叩いてやれば、前足を上げて嘶きそれは駆けだす。
通常とは逆向きに騎乗している舞雷が恐怖でビービー喚くのは当然だった。彼女は普通に乗っても馬の操縦など出来ないのに、後ろ向きな上、体を馬に括りつけられているのだから。
「もうりさばぁ〜〜〜……」
「…我がアレを好いておれば、かような真似はせぬ」
「智将と名高いぬしも色恋沙汰には疎いか。実に愉快愉快、ヒヒッ」
「貴様は好いた女を馬に括りつけ暴走させることで好意を示すのか」
「いや、我は違う。そういう好意の示し方をするのは、大方子供よ」
「我が子供と言うか」
「好きな子程いじめたくなる子供じみた心理よな」
「くだらん…」
二人の視線の先で、舞雷は涙を撒き散らしながら馬の上で呻いていた。へんなものが背に乗っているものだから、馬の方も混乱してきてそこかしこを暴れ狂っている。
「誰が見てもぬしの行為は子供の恋にしか見えぬ」
「………」
「ぬしの捨て駒共も同じことを思っていることだろうなぁ」
「!!」
毛利からしてみれば、大谷にからかわれたくらいでは動じない。だが、自分が操作するべき捨て駒達に、「毛利様って子供みたいな好意の示し方してるなぁ」などと微笑ましく見守られてはたまったものではないのである。
「いや、我は舞雷のことなどいじめ心地の良い駒としか思っておらぬわ!」
「素直に認めよ、同胞。舞雷を思うと胸が熱くなるのではないか?構っておらねば落ちつかぬのではないのか?」
「……っ、何故それを…!」
「それが恋というものよ」
「…これが、恋…!」
どうしようもなく己の加虐心をくすぐる何かを恋だと知った毛利は、ついに括ってあった紐が切れてスポーン!と馬から落ちて飛んでいく舞雷を見ながら、初めて頬を赤くしたのである。


幼愛