女遊びを覚えるべきだ、というのが刑部の言い分だった。 そんなものに必要性も意義もないと全力で拒否したが、妙なところで意地を見せた刑部により、結局私は遊郭の一室にいた。
それも、水揚げを任されて。
「舞雷と申します」 「………」
自分でも滑稽なくらいに己の眉が寄っているのが判る。 恭しく頭を下げたのは新造の舞雷という女。 私よりも幾分か年下で、水揚げというからには未通女の筈だ。
「…言っておくが、私は一見だ。金を無駄に撒くつもりもない。ついでに、やる気も大してない」 「そんなこと、いいんです。三成様がおいでなさったのですから、本来太夫がお相手するべきかとも言っておりましたが、大谷様が私のような女の方が良いだろうとおっしゃられて」 「……刑部め…」
確かに刑部の言うことはさすがに正しかった。 舞雷という女は、遊女にしては(未通女なのだから当然かも知れないが)柔らかく大人しい雰囲気があり、こちらも楽な気構えで前に座っていられる。
「…貴様は私でいいのか、舞雷?」 「はい、今宵三成様に水揚げしていただきとうございます」 「店の命に従っただけだろう」 「逆らえませんが、いいんです。逆に…三成様でよかった」
この瞬間、舞雷が柔らかく笑った。
所詮相手は遊女、私が此処に来たのも女遊びの名目だし、それ以上のことはない。面倒ですらあった。 気乗りもしないのに女など抱けるか、と自棄を起こして酒ばかり飲んでいたが、この柔らかな微笑みの前に鬱蒼とした気分などどこぞへ浄化されてしまう。
「…三成様?」
目を奪われるとはこういうことか。 名を呼ばれ、意識が現実に引き戻される。
「どうなさいました…?」 「いや…。やる気はなかったが気が変わった、私は貴様を抱くことにする」 「はい、なんなりと」
床に移動し舞雷の華奢な体を押せば、それはすんなりと私に従い寝そべった。 美しく着飾った衣を崩し、紅を差した唇に無意識に吸いつきながら、いくばくか恥じらいを見せる滑らかな肌をさする。
「三成様、私…失礼がないように精一杯努めます。でも……不出来です、きっと。だから命じてください、何でもおっしゃる通りに」 「いじらしい女だな」 「っあ、」
正直感心した。いくら未通女とはいえ、遊女というからにはもっと性に慣れていると思っていたが、これほどにいじらしく可愛らしいと思えるのは何故か。
肌蹴た着物の隙間から顔を出した乳房は形良く、恥部に指を這わせると艶やかな陰毛と粘液が絡みつく。 ただ体を愛撫していただけでここまで濡れるのは、淫乱故か、他の何かが理由なのか。
「っひぅ…」 「指の一本で此処まで狭いのか…」 「あっ、く……っ」 「痛むか」 「…っいいんです…もう、ああっ…ほし、ぅ…入れてくださっ…」 「…狭すぎる。私はいいが、よほど痛むぞ」
身を捩りながら舞雷が強請る。 器量の良い顔は歪んで、涙と甘い嬌声と吐息で塗れていた。それを見てこの上なく興奮する己を訝しく思いながら、……結局、私はこの女をらしからず好いたのだろうと自覚した。
「三成様が、っん、欲しいんです……っ」
遊女だが、舞雷の言うことは、客を喜ばせる心算でないことは確信が持てた。 だからこうして私自身を求める発言をされると、我を失う程に幸福な気持ちになった。
目が眩むような錯覚の後、いつの間にか慣らす為に挿入していた指の代わりに、膣の入り口には己の亀頭がまさに肉壁を穿たんとしていた。
「…力を抜いていろ」 「あっ、く…!」
少しでも破瓜の痛みを和らげてやりたいと思った。
上体を覆いかぶさるように曲げ、頬や額に接吻しながら頭を撫でてやった。そのまま何度か出し入れを繰り返せば、いくらか痛みも引いてきたのか、食いしばっていた歯を緩めて熱い吐息を吐き出す。 痛みに耐える為に握っていた拳も解け、それは私の首に周り、甘い接吻を強請ってくる。
「好きです、三成様……好き…」 「……ああ…、私も舞雷が愛しい…」 「…本当ですか?本当に…?」 「私は嘘は言わん。…嗚呼、舞雷…きっとお前を身請けしてやる、きっとだ」
じわ、と舞雷の瞳を濡らした涙は、痛みに打ちひしがれた涙ではない。心から私の言葉を喜んでくれた涙だと信じている。
*花蕾
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