吊るされた状態で舞雷は呻いた。彼女のいるこの部屋は本来捉えた捕虜や間者を尋問する場所であったし、吊るし方も同じだった。けれど決して彼女は間者などではないし、敵軍のどれでもない。ただ普通に生きていただけだった。

「お前が悪い、お前が…」

熱に浮かされたように、吊るされた舞雷を前に三成は呟いた。裸体の柔肉に食い込む縄、鞭打たれた傷、水責めにされて濡れ凍える体。その全てを憐れむように抱き締め、さすり、彼女の髪を掻き上げて見つけた顔に唇を寄せる。

氷のように冷たく冷えた額や頬に振ってくる唇の熱を、舞雷は心地良く感じて身ぶるいした。三成の何かを受け入れることだけはしてはならないと思っていたからだ。彼は愛の名を借りて舞雷を此処まで痛めつけることが出来るのだから。

「私を避けたから……」

まるで自分のしたことを正当化する為の詭弁である。三成は舞雷から唇を離した少しの時間にぶつぶつ言って、また唇を寄せることを暫し繰り返した。息苦しくて舌を出し、肩で息をする舞雷のことなど微塵も気遣う様子はなかった。

舞雷は、霞む視界の中に三成を嵌めた。彼はいつも彼女にとって恐怖の対象だったのに、どうしてか悲しそうな顔をしていた。痛みや絶望で半分程意識を失っていた舞雷は、三成が顔を歪めている理由など思案する余裕はない。ただ、彼の手にいつもはない愛刀と止血用の紐や薬があったことで、この後身に降りかかるであろう激務を思って微かに眉を寄せた。

随分長い間舞雷の冷たい顔のあちこちに唇を寄せていた三成が、やがて彼女から顔を離した。空いた手に持っていた刀達に意識を移行するのを恣意的に黙殺し、舞雷は硬く目を閉じた。あのまま接吻で窒息死する方がどちらにとっても良かったかも知れないと片隅に思いながら。

「いいか、舞雷。お前が悪い」
「…………」
「私から遠ざかった両足はいらない」
「……っ…」
「私との間に壁を作る両腕も同義だ」
「……(嗚呼、何故…)」

妖しく光る刀身が現れる。それは鈍くなっていた意識を、酷くも覚醒させる。舞雷は泣きたくなった。否、泣いた。冷えた体は四肢を断絶される痛みを麻痺させてくれるだろうか。

「三成ッ、三成……」
「舞雷、舞雷、私は…」
「やめて……、ね……?」
「愛おしいんだ、愛おしい…、舞雷、お前が…!!」
「……だめ、そんなことしたら…」
「お前が悪い…!!」
「貴方を抱き締めることも、貴方を絡めることも出来なくなるよ…!」

絶叫の末に枯れた喉で舞雷は力強く言った。そして三成は静かになった。この短い静寂に彼女は救いを求め、寒さを思い出し歯を鳴らす。いよいよ掠れた喉に合わせてガチガチ響く騒音の中、彼女が口の中から必死に吐き出す縺れた愛が、拙く三成の鼓膜を焦がし、彼は泣いた。


救われないふたつの頭