凶王三成が溺愛している舞雷という少女を、刑部大谷もことのほか可愛がっていた。というのも、友人である三成からして可愛い子供のようなものだ。その恋人ともなれば可愛いのも当然である。 その刑部が暇を持て余し大阪城の近辺をふよふよ散策していた時だ。この日は天気もよく太陽光が温かい。日の光を浴びて猫のように塀の上で丸くなっている舞雷を見つけ、「愛い奴め」とか思って見守っていると、一陣の風と共に大きな塊が飛来して、舞雷を連れ去って行った。
「………はて、」
あまりに急だったので、大谷は反応が遅れた。
「刑部〜!舞雷はワシが貰っていくぞ〜!!」 「…………と…!」
そう、まさかの徳川家康である。彼は虎視眈々と狙っていた。天下うんぬん以前から、舞雷を拉致することを。 まんまと目の前に浮いていながら舞雷を拉致された大谷は、言葉にならない叫びを上げる。しかし忠勝に乗った家康は既にもう視界から消えている。自分が傍にいながら拉致を許したと凶王に知れればどんな面倒が起こるか。いやそれ以前に可愛い舞雷が拉致されたこと自体に、大谷は酷く心を痛めたのである。
「……それで、後悔の末貴様は己のツラを拳で殴ったと」 「無論」 「…まあいい。口元の包帯まで鼻血が染みていることに免じて私からは何もしない」 「嬉しきことよ」 「ともかく、一刻も早く舞雷を助けに行くぞ!」 「既にいくつか手は打った。長曾我部、毛利、真田、伊達に徳川が人妻を拉致しいやらしいことをしようとしていると文を送った。真田は既に徳川に攻め入っている。破廉恥は許せぬとかいって」 「…………」 「長曾我部と伊達は暇そうであったし、徳川の行動に腹を立てていた故…そのうち腰を上げるであろ」 「…………」 「毛利は、今日は天気がいいから駄目だ」
いつにもまして迅速な対応をする大谷を、三成は何とも言えぬ複雑な心境で見つめた。冷静に考えれば今徳川に単身乗り込んだとて、無事舞雷を奪還するには難しい兵力だ。しかし毛利に無視されたとて、真田が既に先頭を切っているし、長曾我部と伊達が続くのであれば勝ちはかたい。
「何をしている三成、早に行くぞ」 「あ…ああ」
本当なら暴走して急かすのは自分であるのに。普段ならあり得ない速度で飛んでいく大谷を追いながら、三成は眉を寄せた。
過保護なお方
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