「三成くん、懐妊かい?」 「!!」
向かいから歩いてきた半兵衛に会釈をしようとしたところ、いきなり笑顔でありえないことを聞かれた三成は酷く驚いて絶句した。その様子をみた半兵衛はすぐさま、「冗談だよ」と付け足して、ほっと胸を撫で下ろす三成をにこにこ見つめている。
「しかし…太ったね」 「はあ…そうでしょうか」 「うん。見事に腹だけ。やっぱり懐妊してるんじゃないの?」 「ま、まさか…!私は男です!」 「だよねー」
三成はこの日、半兵衛から見たらあり得ないくらい厚着をしていて、更に腹部がかなり出ていた。 懐妊よりも太ったと言った方が真実味があったものの、顔や腕や足といった部分は見なれた贅肉のない体だ。半兵衛は不可解だったものだから、じろじろ三成を観察した。
「あの…半兵衛様」 「ねえ三成くん?」 「はい」 「そこ…何か入ってるの?」
半兵衛が指さす先は当然、三成の不自然な出っ腹。三成は、半兵衛をかわしてさっさと逃げてしまいたい気持ちと逆らえない気持ちの狭間で苦い顔して苦悶し、末に尊敬が勝って服をめくった。
「あ!」 「…こういう次第で……」
そこには舞雷が張り付いていた。
「……ええと、」 「申し訳ありません半兵衛様!」 「痛゛!」
反応に困る半兵衛を見て、何を焦ったか三成は勢いよく土下座した。おかげで上半身に張り付いていた舞雷の後頭部が激しく床に叩きつけられることとなり、床と三成の間から潰れた悲鳴が聞こえる。
「誓って、誓って私が舞雷を放したくなくて持ち歩いていたわけではなく!」 「持ち歩いていてもいいよ?別に…」 「舞雷が私にひっついたまま眠ってしまい、離れなくなってしまって…!」 「あ、そういうことかい」 「決して私が嬉しくて引き剥がす努力をしなかったから離れなかったのではなくですね!」 「はいはいはいはい」 「可愛いからつい抱っこしたまま闊歩していました半兵衛様!」 「わかったわかった、暴走して本音がぼろぼろ出てるよ。それはともかく、その可愛い舞雷が潰れて死にそうだ」 「!!」
尊敬する半兵衛を前に恥ずかしい所を見られた羞恥心故か、暴走した三成は本音が出るわ出るわ。とりあえず半兵衛の忠告は耳に入り、潰れた舞雷を助けるべく上体を起こすと、舞雷は三成から剥がれて床に張り付いた。
「いいねえ、若いって」 「…え……」
三成が舞雷を助け起こして両腕で圧をかけていると、半兵衛は年寄りくさく吐き捨てて歩いていった。
離れたくないお年頃
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