「あなたなんて嫌いです!人を憎んでばかりだし冷酷だし!判ったら帰ってください!」
「私が悪かった謝ろうすまないあれは嘘だ。だから私の舞雷がどこに逃げたか答えろ海神の巫女!」
「謝り方に誠意が全くないじゃないですか!だから奥さんに逃げられるんですよ!!」
「何だと!!」

鶴姫のとりまきたちをバサバサ斬り捨てるという強引な手段で鶴姫と面通りした三成は、とにかく早口で捲し立てて、逃げてしまった妻の居所を割らせようとした。
しかし鶴姫は答えようとしないし、それどころか正論で挑発されて三成は早くも堪忍袋の緒を切らした。すばやく刀を抜かんと手を伸ばす。

「落ち着け、三成。それでは海神の巫女も答える気になるまい」
「刑部貴様っ、その怪しげな数珠で舞雷の居所くらい割り出せそうな見てくれをしているくせに!役立たずめ!」
「我に当たるな」
「大体、奥さんを見つけてどうするんですか?」
「どうするかだと?決まっている、まずはその場で尻を百叩きだ!」
「し、信じられない!なんて人!!」

三成はバカ正直なので、包み隠さず本当のことを言った。
当然女性の尻を百叩きなど(本気となれば余計に)性質が悪い。海神の巫女の警戒心はおろか嫌悪感まで積み上げ、協力どころでなくなっていることに三成はまだ気づかない。

「その後泣き叫ぶ舞雷を連れ帰り、二度と逃げられぬよう首輪をつけて部屋に繋ぐ」
「奥さんを家畜扱いするなんて!」
「煩い、何だその非難的な目は!私は舞雷には優しいんだ!」
「どこに優しさが含まれていたんですか!ただの最低な男ですよあなた!」
「なんだと…!私がどれほどに舞雷を過保護にしているか知るまい!」
「過保護すぎて変態です!」
「へ…!!」

三成は自分の舞雷への愛情が純粋だと信じて疑わなかったので、鶴姫のこれまた正直な評価にかなりの衝撃を受けた。
そんなやりとりを見ていた大谷は愉快で仕方ないらしく、身体を震わせて笑っている。

「いいですか、女性の心を紳士的に掴むんです。あなたのは横暴で、自分勝手で、バカみたいで、変態です」
「おのれ…!」
「奥さんが逃げたのは当然です。手助けをしてしまったら奥さんに私が恨まれてしまいます!」
「やはり斬る…こんな巫女もどきに頼った私が愚かだった…!」
「まあ待て待て、ぬしは奥に逃げられ気が動転しっぱなしよ、我に任せよ」
「……もうどうにでもしろ」

言う大谷が見たこともない程愉快そうに笑っているので、三成は目を背けて大谷に任せることにした。

「……海神の巫女よ、三成は舞雷という妻がおらねば一人で飯も食えぬ程ふぬけた男よ。このまま奥が見つからねば淋しくて死ぬであろ、そう…うさぎのように」
「ッ!?」
「う、うさぎ…!!キュン…!」

任せてみたら、大谷はにやにやしたまま言いたいことを言った。
これには三成も反論の嵐だったが、口を開くより先に異変に気付いた。自分が絶句した少しの隙に、唇を尖らせていた海神の巫女の様子が激変したのだ。心なしか、批難的だった目がキラキラと輝いている。

「か…かわいいですね…!うさぎだなんて…!」
「三成はバカ正直だが素直ではない。本当は淋しくて奥の胸に埋まって甘えたいところを、尻を叩くなどと嘯いて強がっておるのよ」
「なるほど…!」
「ぎょ、刑部きさ・」
「この間など奥に赤ちゃん言葉で甘えていたのを聞いたなァ」
「な、なんてこと!」
「ああああやめろ私はそんなことしていないいぃ!!」
「夜など奥に子守唄を歌って貰わねば眠れぬ始末」
「まぁ!」
「些細な誤解で奥に逃げられ、傷心の末に子供のように大泣きしてなァ」
「誤解ですか…!」
「奥の『はい、あ〜ん』でないと飯も食わぬ。見よこの痩躯を。このままではみじめにのたれ死ぬわ」
「――――ッ、、」
「先の三成の無礼は忘れ、力を貸してもらえぬか、海神の巫女よ」
「そうですね。凶王さんの本性も判りましたし。そういうことなら奥さんの居場所を突き止めてみせましょう!」
「ヒヒッ…やれ上手くいったぞ三成。……三成?」

刑部にあることないこと云われた所為で三成はいじけてしまい、鶴姫が舞雷の居場所を割り出している間、しゃがみ込んで頭を押さえてブツブツ言っていた。

「…えっと、城の押入れの中に輝く星が…これはつまり…」
「……押入れだと?」

三成は立ち直り、立ち上がった。

「……奥は城内にいたか」
「そのようですね…。逃げられたのも誤解だったということです」
「帰るぞ刑部!!尻を百…いや、二百は叩いてやらねば気が済まん!」
「またそんな照れ隠しを言って!凶王さん、これからはうさぎさんと呼んでも…」
「呼んでみろ即座に斬滅してやる」
「かわいいのに!」

不機嫌を通り越した三成は始終怒鳴り散らしてさっさと自分の船に向かう。その後をごきげんな大谷がふよふよついていったのだが、からかってみたところ衝撃の事実が飛び出してきた。

「奥は何も悪くなかろ、尻を二百も叩けば本当に逃げられるぞ」
「誰が舞雷の尻を叩くと言った」
「………」
「私が叩くと言ったのは、刑部…貴様の尻だ!」
「震!!」

三成の目が本気だったので、大谷は輿の上で腰を抜かした。


奥の為なら海へでも