黒の少女シリーズ | ナノ


『贋物朋友』

トラブル発生

 何が起こるか解らない未知のオマジナイを夜の校舎で遣るという事以上に、それぞれどうしても叶えたい願いがあった故に切迫していたが、此処でやっと少しだけ張り詰めていた気が緩んだ。



それが、まずかった。






 カシャンッ。


 響いた音。それは妙に大きく木霊して聞こえ、固まる三人は、ただ床の震動を感じていた。

 何の前触れも無く訪れた自然現象は、三人に絶望的で最悪な状況を齎した。偶にある震度三、四程度の地震という現象により、机から落下した硝子人形が、割れていた。


 三人の顔色が、変わった。

 簓は目を見開いて眉を顰めた焦躁を、友紀は真っ青に顔を歪め怯えを、杏は僅かに目を剥いて呆けたような心情をそれぞれ顕わにし、ただ現状を見詰めていた。

 机は勿論グラついていたりしない脚が確りした物を置いておいたのに、人形がまずかった。地震で床が揺れ、机に倒れた。その時点では無事だったが、全体的に丸いフォルムの人形はそこからいとも簡単に転がって落下してしまったのだ。

友紀:
「…ど、どうしよ……。わ、私達っ…どうなるの…?」

簓:
「っ……」

 杏が微動だにせず現状を見詰める中、友紀が怯えながらそう言い、簓は苦々しげに脣を噛む。最悪の事態だ。


 そう、あの話には続きがあった。

 先ず儀式は呪文を唱え、願い事を黙祷した後、『これで契り、私達は朋と成りました。朋友の儀式を終えます』と言ってからが“終了”なのだ。たとえどれだけ日数が経とうと、それを云うまでは終了にはならない。

 彼女は、友達になれば願いを叶えてくれる。但し、友達の証である硝子の人形は儀式が終わるまで大事にしなければならず、儀式が終了した後なら問題無いが、終えるまでに少しでも破損した場合、呪われてしまうと言われていた。それは儀式中、友人の証を大事に出来なかった最低な人間と判断されるからであり、それ即ち友達では無い、敵という事だ。

杏:
「…お人形さん、戻らないねぇ」

 杏が割れたガラスドールに近付き、しゃがみ込んで破片同士をくっつけてみたりと無駄な行為をしながらそう呟いた。

簓:
「…と、取り敢えず儀式は終了させよう」

 簓のその言葉で、三人は終了の言葉を紡いだ。その後も場は重苦しい空気が支配していた。

 抑このオマジナイがただのガセである可能性が高く、世間では相手にされないような与太話だ。しかし若い彼女達が素直に怯えているのには、当然、理由があるのだ。

 実際に試した人達の成功例が行き交っている事は先述したが、勿論、中には失敗例もあった。それを聞くに、友愛様に呪われた者は何とも悲惨な目に遭っているようだった。そんな話を聞いていれば、そりゃ怖くなる。

簓:
「まあ…取り敢えず今日は帰ろう。こうしててもなんもならんし…」

 その言葉で、三人は割れた硝子人形を手が傷付かないよう新聞紙で拾い、ゴミ箱に捨てた後、昇降口へ向かった。



 昇降口へ行くと、曇り硝子の鉄の引き戸が閉まっている。

 三人は一旦解散して別の場所で暇を潰してから学校に忍び込んだ。実は戸の一つは生徒が鍵を壊してしまい、今は開きっ放しなのである。正に今日、学年集会で長々と語られた。

 簓が鍵の壊れた引き戸に近付き、固いので力を入れて思い切り引くが…。

簓:
「あれっ。開かね…」

杏:
「うぅ〜。閉め出されちゃったのかなぁ…?」

 杏が可愛く唸り、そう言うが、

友紀:
「だって…鍵、壊れてるのに…」

 友紀が怯えながら鍵の取れた箇所を指差す。他の扉は閉鎖されていて当然なのだが、まだ業者に鍵を直して貰っていない此処だけは開く筈だった。

 どの扉もいつも生徒や先生が開け閉めしているし、錆付いて開かないという事は無い筈だ。三人で引っ張ってみてもびくともしないところを見ると、どうも古いので固くなったとかのレベルではないように思える。丸で、何かに堰き止められているかのように。

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