黒の少女シリーズ | ナノ


『生存説』

造花



 しかし竹澤が目を付けたのは、本棚の上の花瓶だった。

竹澤:
「これ……造花だ」

木元一哉:
「水替えんの面倒だから作り物にしたんじゃね」

竹澤:
「いや、水はちゃんと入ってるよ。そうじゃなくて、生花の中に一本だけ造花が在ったんだ。前は気付かなかったけど……」

 言いながら竹澤は、花瓶の水の中に浮かんでいた何かをそっと取り出した。

竹澤:
「あ、ああ! これは軍物の……!」

木元一哉:
「ぐ、軍モノ?」

竹澤:
「知らない? 簡単に言うと、防水のノートブックね。水に濡れても書けて読める特殊なやつ。コレふやけてないし、恐らくそれだよ」

 簡潔に言い、その切れ端を読む竹澤だが、可笑しそうに、だが何処か寂しそうにそれを俺に渡した。

 怪訝に思いながら切れ端を見るとそこには──。


《木元くん。これを読んでいる頃には私はもういないだろう。ただ約束通り、君が欲しがっていた私のランジェリーは扉を開けて直ぐ右側に在る三段ボックスから選んでくれればと思う。君へのお勧めは黒のレースのやつだ。
 美人で素敵な同級生より》


木元一哉:
「だから欲しがってねぇっ!!! なんっだコレ?! 全っ然自殺と関係ねぇだろうが!!」

 ただの手紙だというのに思わず全力で突っ込んでしまった。

 普通のペンで書いた物なのに、毛筆で書いたような書体で、かなりの麗筆で記載された戯れ言。茶目っ気を出しているのか、“より”の後に不気味なハートマークが書かれていた。いや別に普通のハートマークなのだが、黒一色な上に毛筆っぽい感じなので不気味なハートに見える。

 部屋を見ると確かに扉を開けて直ぐ右側に三段ボックスが二つほどあり、その一つは見た感じ下着っぽい物が収納されているようなのだが……意地でも開けたくは無い。取り敢えず名前の部分を“美人で素敵な”だけ斜線で消したい衝動に駆られた。

竹澤:
「……」

 しかし竹澤は徐に近付き、下着っぽい物が収納されている三段ボックスの一番上を引き開けた。少し漁り、次はその下を開ける。

 何だ……? このふざけた手紙に何か見出したのか?

 軈て竹澤は、ちょっとセクシーな、所謂エロ可愛いという感じの黒い下着を取り出して見せた。

竹澤:
「ねえ木元、このブラ……Bカップだよ」

木元一哉:
「いや、どうでもいいからっ! お前は何を遣ってるんだ! そうゆう趣味か?」

竹澤:
「そうゆう趣味って……気になっている子の下着を見れて嬉しくない男なんて居ないでしょ? でもそうじゃなくて、おかしいんだ。だって誇大はDに限り無く近いCカップなんだよ。前に俺が家にお邪魔した時、上だけ脱いでブラ姿で自信満々にセクシーポーズとり出して、その時、『私は美乳なCカップ』とか何とか自慢して来たもん」

 至って平静の顔で恥ずかしい事を言ってのける竹澤だが、馬鹿正直だというだけで嫌らしい感じを与えないのは、此奴の人柄であり、本当に淫らな考えなど少しも宿していないからだろう。

木元一哉:
「女って痩せたとかで胸が縮むとかそうゆうのあるじゃん。後は間違ったブラサイズを着けてる人が多いとかテレビでやってた事があるが……」

竹澤:
「有り得ない。だってあの日、誇大は学校に来てた。着けて来てたのはCカップのブラだった。だって見せられたからね」

木元一哉:
「じゃ、前に着けてたやつじゃないのか? Cになる前のやつ」

竹澤:
「誇大はCとDのブラしか持ってない。自称、“将来Fカップの女”らしいから、自分のカップサイズより小さいブラは忌々しいから直ぐに捨ててるって言ってたし」

 忌々しい。……なんか想像出来る。というか仮にも男の竹澤にこんな情報を次々と与えるなよアイツは。

 端からみれば物凄く恥ずかしい、しかもふざけた会話かも知れないが、俺に部屋を調べるよう託し、それによって下着へと誘導された。そこに入っていたのがBカップのブラジャーだ。しかも自殺した日、竹澤にカップサイズを態態教えている。アイツらしい、解り辛くて回りくどい遣り口……。

竹澤:
「……ねえ知ってる? 保途のカップサイズ」

木元一哉:
「知る訳ないがこう来たらもう大体判るだろ……Bか?」

竹澤:
「そう」

 竹澤は真剣な表情だ。だが何故だろう、好意を持っている誇大が死んでしまったというのに──否、此奴の中では誇大の魂だけは生きてるという説だとしても。このミステリー紛いの下らない推理を何処か愉しんでいるようにも見えた。

木元一哉:
「まあ……あとは何も無いだろ。結局は死んでからも誇大に振り回された訳だ。時間の無駄だったな」

 俺は横長の取っ手に手を掛けた。


竹澤:
「……何で花瓶のお花に造花が交じってたのか……解る?」

 だが不意にそんな事を言われ、立ち止まる。……回りくどい。矢張り創作に傾倒している者だ。

木元一哉:
「あれに意味が在るなら教えろ」

竹澤:
「……」

 だが竹澤は暫し黙ったまま、軈て一言だけこう訊いて来た。

竹澤:
「木元は、どんな形であれ誇大が生きていると思う? 死んでいると思う?」



死んでいる
生きている



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