『生存説』
自殺
そんな誇大が死んで、
一年が経とうとしていた。 原因不明の自殺。奴は自ら命を断った。……学校から少し離れた山の裏手に在る廃墟の屋上から、飛び降りたのだ。
それも、悩んでいたとかでは無い。否、奴にも何かしら悩みというものが存在したのか、それは俺には解らない。兎に角、奴は飛び降りる直前、その日普通に登校していた学校で、何時もの調子で公然と語ったのだ。
四報誇大:
「生き物は生誕し、その生き物がまた新たな命を生み、死んで行く。死が在るから生は在り、生が在るから死も在るのだ。死の無い生など、本当に生きているとは言えない。私は思う。死は始まりであり、死は新たなる人生の起こりだと。その人が何を持っていようと死んでしまったら元も子も無く、“終わり”だが、それはその躰に宿る生命に限ってであり、その人生は終わりでは無く、其処からドラマが生まれる。尤も、当然の如く“死の始まり”は他者の生が無ければ意味が無いのだが」
何を言っているんだと、そう思っていた。何時もの如く。他の連中もそうだった。
けどその日、誇大は家に帰らなかった。彼女の両親は誇大の友達やクラスメイトを初めとして、学校や関わりのなさそうな学生達など見境なしに電話を掛けまくった挙げ句捜索願いを出し、誇大は件の廃墟から遺体で見付かった。
葬式での母親の嘆きようは、凄まじいものだった。父親がそれを始終支えていたのだ。余程ショックだったのだろう。しかも、朝いつものように送り出した極普通だった娘が、その日の学校帰りに自殺したとあれば……。
誇大は俺達の心に強烈な印象だけを残して消えた。丸で幻のように。ただその強烈な存在だけを心に焼き付け──あっさりと、消えて逝った──。
──清々するな。
あの時、誇大に放った言葉が脳裏を掠める。私が死んだらどうするかと聞かれた時の俺の返答だ。
木元一哉:
「はぁ……」
俺は溜息を吐き、一人お目当ての人間が現れるのを待った。
?:
「待たせてしまったかな?」
暫く携帯をタッチしていると、無糖珈琲を啜る俺にそう声を掛けて来た女が居た。顔を上げると、案の定の面子だ。
木元一哉:
(……竹澤)
俺の視線の先には、一人の少年が居た。
そいつは竹澤といって、前々から誇大によく絡んでいる猛者なのだ。普通、誇大の方から絡んで来る事はあっても、自分から奴に近付くなんて命知らずと言っても決して過言では無い、どんな精神力かと驚嘆するような事をするのは、こいつくらいだ。
その竹澤が、丸で従っているかのように或る人物の後ろに立っている。竹澤の前に立つのは、俺を呼び出した張本人──四報保途(しほう たもと)。
……そう。彼女は自殺した四報誇大の実妹なのだ。
俺は木元一哉(きもと かずや)。地元の学校に通う、極普通の中学三年。少なくとも俺はそう思っている。というか、そうであって欲しい。
竹澤とは友達で、よく連んでいる。が、如何せん、此奴は誇大のような変人が大好きの変人。
誰にでも合わせる事が出来、その性格から男女問わず意外に交遊関係は幅広く、話せば普通なのだが、先述したように誇大のような人間によく関わっている。
前に自分のタイプの異性の話になった時、竹澤から「誇大のような人」という恐ろしい返答を貰った事がある。まさかとは思っていたが、戦慄した。
そんな竹澤と連んでいるのもあり、誇大に目を付けられる羽目になった。奴は俺によく絡み、変な演説や限り無くどうでもいい事を喋喋と語るのだ。そして必然的に誇大と時間差で生まれた同い年の妹、保途とも付き合いが増えた。
今俺達が居るのは、丁度通学路に在る喫茶店。ドが付く程では無いが、俺達が住んでいるこの
軌鹿(きっか)市二ノ下町(にのしもちょう)は田舎なので、この狭い通学路は基本的に車も人通りも少ない。また、一番奥の角の席は気付き難く余計に目立たない為、人に聞かれたく無いような話をする時に便利だった。特に誇大なんかの言動は目立ち過ぎる。
その関係で、よく此処に集まっていたのだ。
木元一哉:
「いや。それより、何なんだよ? 今更」
俺は、何時も気持ちの悪い嗤いを張り付けていた誇大とは対照的に、常に人形のように無表情の保途の顔を見て訊いた。
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