SHiONシリーズ | ナノ



お坊っちゃま


 大きな屋敷があった。庶民複数人の一生分の給料を合わせても届かない、立派な上流貴族の大邸宅である。
 その邸宅から少し離れた洞窟の中から、立派な制服を纏う老人と、庶民の素朴な服を着ているが気品溢れる若者が出て来た。
 老人は制服の汚れを払いながら、その白い髭に包まれた厳つい顔を真っ赤にして若者を睨み付けた。

「ジャック様! 貴方様はマニオン家の家長であるという自覚はあるのですか!? ミサをサボり、朝のお食事にもいらっしゃらない……更にもう直ぐ大事な政治議論が始まると言うのに、こんなところでそんな格好をして!」

 立派な邸宅はマニオンという大貴族の家であり、老人は若い頃からその家の先代当主に遣えて来た忠臣だ。
 その忠臣が説教をしている若者は、先代当主である父親が亡くなったため急遽家長を務めることになった一人息子、Jack Mannion(ジャック・マニオン)である。

「あはは、そんな怒らないでよ爺。こういうところを見付けたら入ってみたくなるじゃない? この前の葡萄踏みも凄く楽しかったし、僕らも堅苦しいことばかりしてないでもっとはっちゃけてみてもいいと思うんだけどなー」
「なりません! 葡萄踏みなどはしたない! 大貴族マニオンが庶民に墜ちたなど、社交の場に出られなくなります!」
「あーあ、なーんでこんな家に生まれちゃったかなぁ……。僕はもっと、自由に生きたいよ」

 歳の割に子供のようなことばかりを言うジャックに、爺は深い溜め息を吐く。
 何か切っ掛けが必要だと思っていた。ジャックが変わるような、何か。

「……時にジャック様は気になる方などはおられないのですか?」

 ジャックを無理矢理家に連れ帰り、彼が政治議論に出掛ける支度を使用人たちにして貰っている間、爺はそんなことを聞いていた。
 爺の考えは、家庭を持てば少しは変わるかも知れないということだ。女を守らねばならない夫という自覚、子ができれば子を守らねばならず、家庭を守るためには自身が家長として確りせねば成り立たない。

「気になるというのがどういう意味でなのかが分からないけど、今のところは……あ」
「どうされました?」
「いや、一人だけいるなーと。とっても興味深い人!」
「おお! それは誰ですかな!?」

 社交の場に出て来ている令嬢方ならば直ぐに結婚させてしまおうと勇んで尋ねた爺に、ジャックはいつもの天真爛漫な満面の笑みで口にした。

「シオン・プレストン。彼女はとても興味深いよ。一緒にこの広い世界を駆け回ってみたいんだ。彼女なら、か弱い僕を守ってくれそうだしね」

 支度をしている使用人たちでさえ一瞬手を止めてしまうほどの、驚愕の事実を。

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