もうちょっと甘えてくれたって
遠くにあるものほどほしいと思うのはなぜだろうか
あの黒い髪だって白い肌だってずっと傍においておきたいほどだ
ぼんやりそんな事を考えながらふとこちらをみたあいつは心底鬱陶しそうだ
「なんだよその顔」
「別に」
「別にってなんだよ」
こんなに心を奪われてるのにあんたは一向に気づきやしない
ほんとずるいよなあこういうところが
「ほら、仕事をしろ仕事」
「へーい」
本当は戦うの専門なのになんで俺ここでこんなことしてんだろう
なんて思いながらくるくるとペンを持っていたら思いっきり頭の後ろを叩かれた
「ひでえほんと鬼嫁」
「だれが鬼嫁だ」
前は加減もなく死ぬんじゃないかと思うくらいの強さでぶん殴られたりしたけど
今は前より戦場にもでることなくこうしてデスクワークばかりの日々を送っていたら力も弱くなったと自ら言っていた
ほんと可愛いよなあそういうとこ
しかもなんだかんだ優しいし
「なんか面倒臭いな‥」
「‥‥」
おそろしくその目が冷たい
すみません、ちゃんと仕事するのでそんな目で見ないでください
それから一言もしゃべらず書類を終わらせてようやく仕事がおわった
本当なんで俺こんなことしてるんだろう
「はー疲れたー」
そう言って席を立つとまだまだ子供だなあなんて笑われる
これ終わったんだしちょっとくらい甘えてもいいだろうとリカルドを後ろから抱き寄せると
一気に顔が赤くなる
ここは変わらないんだ
ちょっと調子に乗って後ろから首筋を舐めればびく、と肩を震わせる
「ベルフォルマっいい加減にしろ‥!」
「いでっ!!」
今度は思いっきり殴り飛ばされて床に沈むやっぱりガード堅すぎんだろ
ばたばたと部屋を出て行ってしまったリカルドの後姿を眺めつつ溜息をつく
もっと距離が近づくにはどれくらいの時間がかかるか
まああの赤面症が治らない限りしばらくは無理だなあ
今日はやけ酒だ、なんて思いながらリカルドをおいかけた
もうちょっと甘えてくれたって
(いいんじゃないのかなあ)