涙の痕をたどるから






死ネタ











冷たい、冷たい
手も、降り続く雨も、全部全部
なぜそうして全てを奪って逝くのですか
神様はどうしてこういうときに笑ってくれないのでしょうか



手や服を汚すのは自分のものではない赤い血
小さく聞こえる息
握り締めた手は恐ろしいと思うほど冷たい

「おい、大丈夫、か‥?」

震える唇でキバはそう抱きしめた大好きな人に言うと大好きだった少し冷たい真っ白な手がぐっと服を握り締めるのがわかった

「シノ?」
「‥キバ、キ、バ‥‥」

彼は苦しげに眉根を寄せて隠されていない目からにじむのは涙
死ぬのは怖くないと、言っていたシノは苦しげな顔で生きたいのだと告げる
この状況でどうしたって彼が助かる確率なんてないのに
生きてほしいと願う

「だから‥好きになりたく、なかった」
「もう喋んな‥」
「‥好きになったから、こんなに苦しい‥」
「喋んなって言ってんだろ」

涙があふれて止まらない
喋るなと止めてもシノは言葉を止めずに言葉をつなげる

「怖い、またひとりになるのが‥」

それでも、と言葉を区切って綺麗に笑む

「キバ、お前を好きになれて、愛せて、よかった。幸せ者だ‥」

その言葉に益々溢れ出す涙をそのままにキバはシノを抱きしめる
もう彼の命も、あと僅か

「俺も、お前のこと好きで入れてよかった、ごめん‥ごめんな‥」

奥からこみあげてくる叫びを押さえこんでもう一度強く抱きしめる
背中にまわされた腕を感じながらシノは、消え入るような声で言う

「キバ‥愛して、る‥」

腕にかかる重みが増して完全に消えた体温
呼びかけたって声が帰ってくるはずもない
響くのはシノの名を呼ぶキバの声と雨音だけで

「俺も‥大好きだ‥っ」

薄い唇にキバはそっと唇を落とした
氷のように冷たい唇に触れてすぐ離れた
それから少ししてするりと頬に触れた何かの感触
にじむ瞼をこじ開けて見てみれば綺麗な黒色と翡翠色の蝶で
それは一匹ではなく数えきれないくらいに無数の蝶だ
シノを包むように彼のまわりをひらひらと舞う
すると一瞬で全てが蝶に変わり飛び去る
一匹の蝶がキバの手にとまった
そして、さようなら、とでも言うように
羽をはばたかせてまたそれに飛んでいくとともに雨は止んだ













涙の痕をたどるから
(今はどうか優しい眠りについて、いつかまた愛す君にあえたなら)








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