愛と呼ぶにはまだ足りない











ごぽごぽと、音を立てて色んな形に変わりながら気泡が浮き上がっていくのを鮮明な視界に移しながらただそれが綺麗だと思った
現実とはかけ離れたそんな世界に入り浸って沈みながらただただなにもせずすこしぼやけだした意識の中で久しぶりに見たその世界に溺れた


動く気にもなにもなれなくてこのまま死んでしまえたらいいのに
誰にも知られずに、静かに、静かに、死んでしまえたら、どれだけ楽だろうか
そう考えながらゆるりと瞼を下ろした




息苦しさに、ゆっくりと瞼を上げる
時計を見てみればとっくに昼を過ぎていた
とはいっても今日は任務もないし大体予定なんてない、ずっと幼い頃に見た風景とはこんなも鮮明に覚えているものなのだろうか
嫌な夢だ、と思いながらまたベッドに沈む
中忍になってからというものの任務の量も増えたためにこうして休日がぽっかり出来たとしてもこうして寝て過ごすくらいだろうか
もう寝てしまおうと考えていたらチャイムが鳴る
溜息をついてベッドから降りてそのまま玄関を開ければ
同じ班のキバが立っていて雨でびしょぬれだ

「なぜ傘をさしてこない、風邪でも引いたらどうする」
「たまたま出かけてたら雨にふられたんだよ‥家まで遠いしお前なら家、入れてくれねぇかなって」
「タオルを持ってくる、待っていろ」

洗面所から適当にタオルを掴んで玄関にいるキバに投げつける
その態度にキバはなにやら言っているが気にすることもなく部屋に上げる、服もびしょぬれで適当に服を渡して着替えたキバはほっとしたように勝手にベッドに座る

「さっきまで寝てたのか?」
「悪いか」

少し驚いたような表情になったキバに二度目の溜息をつきながら降りた前髪をかきあげ、ベッドに沈んでいると暇らしいキバは雨がやむまで入り浸るようだ

「また寝るの?」
「いや、考え事だ」
「ふうん、なんのこと考えてんの?」
「‥嫌な夢のことだ」
「嫌な夢?」

顔を覗いてきたキバに目を向けて言葉を返す

「幼いころ、見たものがそのまま夢に出てくるだけだ、死にたいと、思ったことがあった」

ぎょっとした表情になったキバからまた目線を戻して枕に顔を埋めた
こいつは死にたいと思ったことなどないのだろうか
どうでもいいことを考えながら布団を引き寄せる

「なんか、ごめん‥」
「いや、別に気にするな。お前が、隣にいる限り、そんなことはしない」

一気に表情が変わって真っ赤になるキバが面白くて小さく笑えば、笑うななんて膨れるキバの頬にキスを落とせばますます赤くなる顔


ますます強くなりだした雨の音を聞きながらなにやら言っているキバにとどめ、といわんばかりに好きだと耳元で言うとぐっと体を引き寄せられた








愛と呼ぶにはまだ足りない
(なにもかも忘れるくらいの抱擁と、溺れるくらいの熱を)











title by Aコース





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