はらはら、ひらひら
死ネタ
雨がやまない
どこまでも続く水面
ああどうやったってこの距離が縮まることなんてないのだ
だって、彼はもうどこにもいないのだから
もうチャクラが切れて体が動くこともままならない
一気に水中に沈んだ体をそのままに見たこともない綺麗な世界を、見詰めた
息がつまりそうなほど綺麗な綺麗な青
気泡が解放を求めて水面を目指して浮かんでいくのを見ながらゆっくりと手を伸ばした
するとぐっと誰かに手を引かれた気がしてゆっくりと合わない焦点を合わせれば見慣れたその姿
水中だから喋れないけれど唇で彼の名前をかたどってみれば表情を変えない彼の表情がほころぶ
ああ、その頬に、その手に、その髪に触れたい
触れたいのになぜか体が言うことをきかない
するとゆっくり抱き寄せられれば何かがほどけたように体が自由になってその体を抱き返した
顔の横にある頭を抱き寄せてその先に見えたのはゆられる誰かの額当て
傷があって少しだけ血の滲んでぼろぼろになった額当て
ぐっとそれを握り締めれば腕の中の彼が一気に泡になって消えた
(あいしてる)
そう聞こえた気がしてもう一度名を呼んだ
視界が揺れる
なにもみたくなくて瞼を下ろした
誰かが名前を呼んでいるのが聞こえて、ゆっくりと瞼を上げる
「キバ‥!大丈夫か?」
「‥‥」
ぼやぼやする視界の先にいたのは小さい頃からの親友のナルト、その後ろにいるのはシカマルやリー、チョウジだった
「死んだんじゃないかって心配だったんだぜ‥カカシ先生がいたからなんとか助かったけどよ‥」
何か握っていることに気づいてふと手を見てみれば先ほど見た額当て
「それ、誰の奴だよ?」
ナルトの腕から抜けてそれを見て感じたのは大好きだったその匂い
あぁなぜだか涙が、溢れる
「どうした?」
「なんでもねぇ。」
最後に彼を見たのはこの湖に沈んで綺麗に綺麗に微笑見ながら、何度も何度もなにかを呟く
きっとそれは俺の名前
最初で最後だった綺麗なその瞳からきっとあふれていたのは涙だろうか
水中だったから分からなかったけれど、きっと彼は泣いていたのだ
振りほどくようにしてほどかれた腕、伸ばしたって離れていく指先を思い出してぎゅっと手を握った
立ち上がって呼びとめられているのも気にせず歩きだす
雨はいまだ止まない
誰もいなくなった場所でそっとその額当てを握り締めて呟くように言う
「馬鹿じゃねえの、一人で勝手にどっかに行きやがって」
おさまらない涙を拭うこともせずにそっとその額当てに口づけた
はらはら、ひらひら
(溺死してしまえば、君にあえるのだろうか)
キバをかばって死んだシノと
一緒に死んでしまいたかったキバ
そんなはなしをかきたかった