不確かなもので壊れてしまわぬように確かな感情で














いつも彼の背中をみていることしかできなかった
誰とでも壁を作っている気がして、性分なのだろうから仕方ないと思ったりもしたけれど今の彼は壊れてしまいそうだ
気づかないうちにひとりで閉じこもっているようにしか見えないのに
声をかければ大丈夫だなんていつもの無表情でいってる
ずっと一緒にいればわかるようになってきた、ただの強がりだということくらい
だからといって触れてしまえばもろく崩れていきそうだ



何もなくても憂鬱になりそうなくらいの雨だ
そうスパーダは考えながらベッドに寝転んで鉛色の空を見ていた。
こんな雨の日にも関わらずひさしぶりにとった旅の途中の束の間の休暇に女性陣は楽しそうだ。先ほどまで買い物にいっていたらしくルカが大量の荷物を持ってへとへとになりながら帰っていて今も女性陣にかりだされている。
隣からにぎやかな声が聞こえる

「ルカ可愛いじゃない!」
「や、やめてよぉ!僕男だよ!」
「ルカ兄ちゃんそこらの女の子より可愛いんちゃうん?」
どうやら着せ替え人形にされているらしくルカの悲痛な訴えが聞こえている。スパーダはそれを聞きながら助けることもせず瞼を下ろした

そうしていると扉の開く音がしてそれから少し遅れて足音が聞こえる
「お疲れのようだね」
「‥なんだお前かよ」
「彼、がよかった?ふふ」
不敵な笑みを浮かべている彼は指先で本をぺらり、とめくっている。どうせ読んでもいない癖に、なんて思いながらスパーダは体を起こす。
「うるせぇ、なんもいってねぇだろ」
「気の所為ならいいけど」
なんて言いながらすぐそばにやってくる

スパーダが顔を上げればコンウェイの顔が耳元にあって囁くように言う

「はやく、言ってあげた方がいいんじゃない?彼、ああ見えて結構脆いだろうから」
「っ‥‥」
顔を上げてコンウェイはまだ笑顔を浮かべている
そんなコンウェイを見上げながらスパーダは舌打ちを打って、立ち上がる

気にしてないはずなのに、なんとも思っていないはずなのに、心臓が脈打つ
苦しくて、痛い
あんな生意気で人のことを餓鬼扱いする奴のことなんて
と思えば思うほど彼の苦しい顔を、見たくないと思う気持ちの方が強くなっていく
強がりなのはどちらだろうか

にこにことしているコンウェイから目線を反らしてベッドの上にあった帽子をひっつかんで大雑把にかぶって部屋を出た
今彼がどこにいるかなどスパーダにはわからなかったが足が勝手に外に向かっていた
土砂降りに変わった雨の中を走りながら、走る
こんなに走ることがしんどいものだっただろうか、胸のあたりをにぎりしめながらスパーダはあたりを見回しながら彼を探す
雨の所為で視界が悪くて、それに日没とともにあたりは暗くなって街灯がともりだした
「ちっ‥どこいったんだよあいつ、馬鹿じゃねえの」
今の自分に彼を支えられるかなんて聞かれればきっと無理だろう
だけれど今の彼に今手を差し伸べなければきっと崩れ去ってどこかに消えてしまいそうだから

港の方に続く階段を降りた場所にその背を確認して、息を吐き、一呼吸置いたあと声をかけようとすれば気配に気づいたのか後ろに振り向いた
いつも結ってある髪が降りていて、どこか雰囲気が違う
雨の所為で濡れた髪の先からしずくが滴る
近づいてそっと肩に触れようとしたらすこし驚いたように目を開いてすぐ目線がそらされる
いつもならやめろとかいうのに彼は何も言わない
怪訝に思いながら初めて触れる頬は雨のせいで冷え切っていて冷たい

「風邪ひくから戻るぞ」

そういい終わる前にその場に座り込んでしまった
瞳は少しうつろでどこか違う誰かを見ているようだ

(きっと自分なんて敵いやしない、大切な、大切な人)
衝動的だった
思ったよりもずっと細いその体を抱き寄せる
至近距離に見える目から流れ出しているのは、きっと涙だ
雨に混じってよくわからなかったけれどそれは確かに生温い滴だ

「ベルフォルマ‥?」
「なんだよ」
「‥痛い‥‥」
「うっせ、黙って抱きしめられてろ」

いつものはっきりした口調じゃなく微かで小さな声

(やっぱり俺、こいつの事が好きなんだ)
嫉妬に似た感情を抱きながら今は身を任せてくれる彼の体を抱きしめて背をなでる
そのスパーダの手の温もりに彼は、リカルドはゆっくりと顔を上げる

「‥ベルフォルマのくせに、生意気だ」
「リカルド」
「なんだ‥?」
「‥‥やっぱ、なんでもねぇ」

なんでこんな時に肝心なことが言えないんだ、自分のヘタレ、と心の中で自分を罵倒しながらスパーダはばっと体を離して、リカルドの腕を掴んで立たせる
「突然すまねぇな‥好きでもない奴に‥抱きしめられて」
「‥‥別に好きじゃないとはいっていないだろう」
いつも通りの調子に戻ったらしいリカルドはスパーダの腕をほどきながら髪をかきあげならそう言う
「へ?」
「戻るぞ」
「わかってる、っぶえっくし!」
大きくくしゃみをしたスパーダに小さく笑ったリカルドはくるりと背を向けて歩き出していた
スパーダはそれを追いかけ、隣に並んで大きく頬を膨らませる
「やっぱりお前は餓鬼だな」
「子供扱いすんなよ!」
なんていいながらスパーダはにかっと笑ったあともう一度大きなくしゃみをして鼻をすすった

揃いも揃ってびしょぬれで帰ってきたスパーダとリカルドにアンジュはバスタオルをもってきてその後説教されたのは言うまでもない







不確かなもので壊れてしまわぬように確かな感情で

(君の手を掴んで、ずっと笑っていよう)











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