lost in blue 性転換アンリカ

















僕はその人を見て、本当に美しいと思えた。
こんなにも美しい人なんて初めてなんじゃないか、って思えるくらい。

彼女が仲間になってずっと旅をして、彼女の抱える深くて重くて黒い何かが彼女自身をどこか行けないほうへ引きずり込んでいる気がしたから。

その日はお金がたまっていたから部屋がひとりずつにあたった。だから僕は彼女の元に向かう。

「僕です、アンジュです。」

そしたら無愛想な彼女は無表情で扉を開けて小さくどうぞ、といった。
いつもヒールを履いているから僕と一緒くらいの目線だけれどそれをはいていないから僕よりちょっと低め。

「お邪魔します。」

ふい、と背中を向けて一番奥の窓際の椅子に膝を抱えてちょこんと座る。服装は女性らしくないいつもの黒いインナーに黒い長ズボン。ちょっぴり期待したのは内緒。髪をおろしているからいつもと違う彼女の雰囲気。

「隣、失礼しますね。」
「‥‥‥。」

無言でこっちに向いて、勝手に座れなんていう彼女は少し泣きそうな顔をしている。
それもそう、先日前世での話であるが兄を亡くしたのだ。

「少し話があるんです。」
「なんだ‥?」
「リカルドさん?」

ふと気付けば頬に伝ういくつもの涙。

「泣いてます。」

そう言われるとようやく気付いたのか何度も何度も服の裾でその涙をぬぐうのだけれどそれは止まらない。
ハンカチを出して僕は彼女に差し出す。そしたら震える指先でそれを掴む。その指は酷く細く見えて。その手をいつの間にか握ってその細い体を抱き寄せる。

「セレーナ‥?」
「泣かないでください。僕は貴方の力になりたい。」
「そんな‥私がまもらなければ‥。」
「今は、そんなこと関係ありません。貴方を助けたい。」

そう言うと彼女は僕の背中に腕を回してありがとう、と小さく言う。

「僕は貴方を愛しているんです。リカルドさん。」
「‥‥でもこんな穢れた私がセレーナのような人に愛されるなんて‥。そんなの‥。」
「いいんです。貴方の全てを僕は受け止めます。」

僕は泣きやむまで彼女を抱きしめたまましばらく無言で頭を撫でていたら数分後泣きやんで体を起こす。

「もう大丈夫‥だから‥。」
「今日くらい‥甘えてください。」
「でも‥。っん‥‥。」

そっとその薄い唇を奪って僕はゆっくり唇を離す。
顔を真っ赤にして、目線を逸らす彼女が可愛くて、そっと頬をなでる。
するとぎゅっと抱きついてきた彼女は赤い顔で見上げてくる。

「何もかも忘れるくらい‥してあげますよ。」
「あっ‥。」
「もっと可愛い服装してくださいよ。そんなリカルドさんもみたいですよ。」
「でも‥私には似合わない‥‥。」

どこまでこの人は自分に自信がないんだろう。
普通ならば女性ならうらやむようなスタイルでもあるし肌も白くて睫毛も長く綺麗な髪をしている。この瞳だって透き通っていて綺麗な瞳をしている。

「もったいないですね‥。もう‥。」
「やっ‥セレーナ!」
「あ、後二人きりの時はセレーナじゃなくアンジュと呼んでください。僕もリカルドと呼ぶので。」

そう言うと震える声で、アンジュ、なんて言ってくれるから嬉しくなって僕はそっともう一度キスをした。






翌朝目がさめれば、疲れたのかぐっすり寝ている彼女、リカルドの姿。
朝に滅法弱い彼女はまだしばらく起きないだろう。上着を着てそっとその髪を撫でながら優しく頬に唇を落とす。

「愛していますよ。リカルド。」
「‥ん‥‥アンジュ‥‥。」

僕の夢でも見ているんだろうか、嬉しくなって僕はもう一度ベッドに入ってその体を抱きよせてる。

「いつか‥僕が貴方が助けますから、絶対に。」

















その指先を掴む為に
(僕は貴方を呼んで絶対に探し出しますから)












「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -