溺死












最初はアンジュの思いつきであった。


「いい加減リカルドさんの高所恐怖症を治してもらわないと…。」
「どうするんだよ?」
「それがねどこかで聞いたんだけど。」

少し遠くにいるリカルドに聞こえないようにアンジュは少し小さな声で言う。

「高所恐怖症には高所に置いてたらなれて治る…って聞いたのよね…。」

そういったアンジュに皆賛同したようで作戦は実行されるのは今からだった。
別に用はなかったのだが天空城に行くように仕向ける。リカルドは疑問符を浮かべていたが半ば強制的に連れて行く。
スパーダが一番先に飛行船から降りたリカルドの背中を思い切り押してすぐに船内に戻った。
リカルドの変な声が聞こえたが、ほっといてすぐに飛行船を出発させる。



船内ではリカルドがどうなっているか、みんなうきうきしているようでアンジュはどことなく楽しそうにしている。
その隣にいたイリアもあの笑い声を上げてスパーダと一緒にどうなっているかの話で盛り上がっている、ルカは苦笑いを浮かべながらリカルドが可哀想だ、と思い手を合わせる。
コンウェイとキュキュもリカルドがどうなっているか楽しみにしているようであった。

数分後

先ほどの場所に着岸してスパーダが迎えに行くことになったためにリカルドを探すために、天空城を見回す。

そうしたら柱に背中を預けて座り込んでいるリカルドがいて、スパーダはにやりと笑ってリカルドの名前を呼ぶ。

「おーい、リカ、ル…ド…?」

声に気づいたリカルドが顔を上げてスパーダは固まる。
その青い瞳が印象的な目からはぼろぼろと涙があふれている。スパーダはあたふたして泣いているリカルドへどう声をかけたらいいか分からなくなっていた。
顔を見られたくないのかリカルドは俯いてしまった。
スパーダがどうすることもできずにいたら帰りが遅いのに気になった後の仲間がやってきた。

「何やってんのよ!スパーダおっそいわよ!」

とにやにやしているイリアの表情も固まる。
あの、あのリカルドが泣いているんだから。とてつもない罪悪感に一行は言葉を失っていた。

「ご、ごめんねリカルド!」

リカルドは立てないのか座り込んだまま無言でまだ泣き続けている。

「とりあえず戻ろうか。ここでこうしていても仕方ないよ。」

コンウェイの言葉に一同は頷いてスパーダがリカルドを支えて船内に戻る。船内にはどうしようもない空気が流れている。
リカルドと言えば船の一番奥でずっと蹲って、聞く耳持たずといった感じであった。

それは宿に戻ってからも同じで食事の時間だというのにリカルドは部屋に閉じこもったまま。

「お前らさき飯食ってろ。呼んでくる。」

スパーダがそう言って席を立つ。皆反省しているようで食事の時も静かだった。2階の一番奥の部屋に向かう。
ドアノブを回すが鍵がかかっていて開かない。ノックをしてもリカルドからの返事は帰ってこない。

「リカルドー、いい加減機嫌直せよ。」
「……。」
「皆も反省してる。本当悪かったって。だからさ、機嫌直せって。」

そう言うと扉の向こうで小さな物音がする。
がちゃり、鍵が開く音がして扉があいたかと思うと物凄く不機嫌そうな表情のリカルド。
髪も下ろしていてどこかやつれている感じで。

「ごめんって‥。」

そう言ったらリカルドはぎゅっと抱きついてきた。
廊下で他の人に見られたら、と思ったスパーダはリカルドの体を抱き寄せてそのまま部屋にはいる。
そして鍵を閉めて抱き付いたままのリカルドの腰を抱き寄せて扉を背にずるずると座り込む。
ずっとリカルドは肩に顔を埋めたまま無言でいる。

「リカルド?」

名前を呼んだら服を握り締めている手に力が入る。

「…さみ、しかった…怖かった…。」

震える声は酷く小さくて。
本当に悪い事をしてしまったと、思って一層強く抱きしめる。

「本当ごめんな。」

首を横に振ってリカルドは、もう怒ってない。そう言って顔を上げる。
暗い部屋の中、その少し潤んだ青い瞳がきらきら月明かりに輝く。
お互いの吐息がわかるくらいの距離。そのままその距離を埋めて甘いキス。

「ん…ふぅ…。」

角度を変えて、何度も舌を絡め合って唇を離す。
リカルドは苦しげにそれでも色っぽく息を吐いて、笑い合う。

「でも本当驚いたな。あんたが泣くなんて。」
「…うるさい……あんなことされるなんて思わなかったんだ。」

そう言って目線をそらしたリカルドを抱きよせ、目尻にキスを落としてそっとその黒髪を梳く。
くすぐったそうな表情を浮かべて笑うリカルドを抱き寄せそのままベッドに押し倒す。

「そういえば、晩御飯で呼びにきたんじゃないのか?」
「うーん、気が変わった。今日はリカルドをいただこうかなって。」
「…そう、か。」







君に溺れ、溺死させて
(時間も忘れるくらいの快楽に溺れてしまえば)









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