泣くなら僕の隣で


22歳くらい










まるで水中にいるように、息ができない、苦しくて、喉が詰まる
異様なまでの吐き気に襲われて支えなしでは立てない体のまま布団の中からはいずり出る
騒いだ後の余韻がまだ残っているようで、部屋にはまだ酒の匂いが立ち込めている
床で雑魚寝状態であった他の面々を布団に運んで寝ようと思い瞼を下ろして、見た夢は、残酷なもので、目を覚ましたらこんな状態で
サングラス越しでない鮮明な景色はゆらゆらと揺れてぐちゃぐちゃだ
口元を押さえる
口内に広がる鉄の味
舌打ちを打って、言うことを聞かない体を無理に動かす誰もいない個室に入り襖を閉めてずるずると畳の上に座る
ひゅうひゅうと鳴る肺は酸素を求めているように痛みが走る
荷物しか置かれていないその部屋の中に差し込む月明かりが目の端に映るのを感じながら激しく咳きこんだ
ぼたぼたと落ちる血を見ながら大嫌いな色をした瞳にうつす

こうなったのは数か月前からだ
発作のようにこの症状が現れたのだが無理に薬で抑えつけていたのだがどうやらもう限界なのだろうか
ここまで酷いのは初めてで

「は、ぁ‥はぁ‥っ‥」

視界の揺れが酷くなって座っていることさえも困難で
そのまま横に倒れ真っ赤に染まった畳の上に爪を立てて胸の痛みに耐える
ふと、足音がして、襖があいた
端に映ったのは、見慣れた姿
必死そうな顔をして、自分を呼んでいた

「おい‥!シ、ノ‥!!」

そのまま抱き起こされて血に濡れた手で彼の、キバのジャケットを握り締める
名前を呼びたいのに、喋ることもままならない体
しばらくそのままキバに抱きしめられたまま、落ち着くまでどれくらい経ったかわからないが、ようやく落ち着いて、手から力を抜いてゆっくりとキバから体を離す

「‥病院行かなくていいのか‥?」
「だい、じょうぶ‥だ‥。薬が‥ある‥」
「まってろ、とってくる。」

そう言ってキバは薬をとってきて、それを受取って水で流しこんだ
しばらくまたキバの腕に身を預けたままいれば優しく、温かい手が背を撫でてくれる

「楽になったか?」
「あぁ‥すま、ない‥。」
「気にすんな、こうなったのいつからなんだ?」
「少し、前からだ‥。原因はたぶん‥蟲だろう‥。」
「なんで蟲が?」
「ちゃんとしたことはわかっていない‥前例がなかったのだ‥今はこうして薬を飲んでおさえるしか方法はないんだ、それか忍止めて蟲と契約を解除する、どちらにせよ数か月しか生きることはできないと、言われた」

その言葉にキバの表情が陰る
そっとその頬に触れて、ゆっくりと唇を重ねて、頬笑むとすこし驚いた表情をしたキバは強く抱きしめられる

「キバ?」
「‥‥絶対死なせたりしねぇ」
「だが、それは‥」
「奇跡がおきたりするかも、しれねぇだろ」

掻き抱くように抱きしめてくれるキバの背に腕を回す
心地よい体温、自分より大きくなった体はもう幼さなんてなくて

「だからさ、シノのこと絶対守るし、どうにかして助けるから」
「‥‥ありがとう、キバ」
「ひとりになんかさせるかよ」

そのまま唇を奪われる。先ほどの触れるだけだったものとは違う、激しくて、深いもの

「んう‥ふぅ‥は、っん‥。」

何度も何度も角度を変えて舌を絡める激しいキス
酸素が足りなくなってふわふわとする意識の中でようやく唇が解放される

「‥は‥‥。」
「愛してる、シノ」

真摯なその瞳に嬉しくなってまた頬笑んで返事をする

「俺もだ‥。」
「‥そんな風に笑って、誘うなよ‥病人襲うわけにもいかねーだろ‥。」
「今は、もう大丈夫だ‥。」
「ほんとに?」

そう言ってそのまま畳の上に押し倒される
眩しい月明かりに照らされたキバの顔が首筋に埋められる
するり、と自分の手を握ってきた指に指を絡めて這わされた手を感じて、甘く息をついた









眩しい光に体を起こせば個室に敷かれた布団の上だった
眩しさに布団で顔を隠そうとしたら、先に起きていたらしいキバが光をさえぎるようにして抱きしめてくれる

「これでいいか?」
「あぁ‥。」
「んーもうちょい寝るか?」
「いや‥他の者が起きたりしたら面倒だろう‥。」
「そうだなーんーでももうちょいこのまま」

抱きしめられた体を振りほどくわけにもいかずそのままキバに抱きついたまま瞼を下ろした

「キバ‥。」
「どうした?」
「‥もし、俺が‥死んだら、‥どうするんだ?」
「そりゃ死んだってお前のこと愛してるし、言ったように死なせねぇよばーか」
「お前らしいな‥。」

頬に感じた指の感触を感じながら、もう一度彼の名前を呼んだ



















もうひとりではないのだと
(どうかひとりで苦しまないで)



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