かなしみもくるしみもたべてしまえたら















あいつが昼間に外へ出ることができなくなったのは一週間前
それは、病気が原因らしくて
真っ暗な部屋に隔離されるようになってからあっていなかった
他の班との任務が決まっていた時、あいつは任務に出られないから、いつも俺と、ヒナタと紅先生だけだった。益々深くなっていく、それぞれの溝
紅先生から、いい加減他の班に見習って仲良くしろって言うけれど、ずっと離れていく距離
きっと、もう駄目だろう
きっと、これが最後の一緒に短い間だけどいたこの面々とも、きっとお別れ

笑い合って、いがみ合って、一緒に泣いて、そんなことを俺らは忘れてしまったかのように、他の三つの班を遠巻きに見ていた
任務が終わって、俺はまだヒナタと解散した場所にいた、他の9人は皆でごはんにいこうなんて言ってるのが遠くから聞こえる
そしたらナルトが俺とヒナタの方に振り向いて手を振りながら言う

「なぁ!今から焼肉いくけどお前らはいくのかよ?」
「えっと、私、は‥。」
「‥んー気がむかねぇし、いい。」
「なんだよーお前の班なんか最近おかしいってばよいっつもぼーっとして俺らの話全然きいてねぇし。」

詰め寄ってくるナルトの額を押さえながら俺はそのまま方向を変えて歩き出した
ヒナタは慌てたような声を上げつつこちらに走ってくるのがわかる

「キバ君、どこに、いくの?」
「‥別に決めてねーよ。お前は、疲れたなら帰ってもいいぜ。」
「でも‥。」
「無理すんな」

そう言うとしばらくして、それじゃあ、と小声で言ってヒナタと別れた

(あぁ、あいついまなにしてるかな。)

一週間前まで一緒に過ごしていて、仲は最悪な、あいつのことが気になって足を止めた
そういえば、ここの道を曲がってまっすぐ行った街のはずれに、あいつの家があるんだっけ
そんなこと考えながら自然とそちらに足が向いていた
とまってたらあいつらがおいついてまた変な事きかれるだろうなとか思いながらその細い道を歩いていく
しばらくして木々が生い茂っていた中に見えた門の前に立って誰かいないのか、とそっと少し空いていた門の間からなかを見れば、お手伝いさんかなにかの女性が少し驚いたような表情をしてぺこっと頭を下げた

「あっ、突然すみません、シノ、いるっすかね‥。」
「いますよ、あなたは‥。」
「俺は犬塚キバっす、同じ班だからちょっと寄ろうかって思って。」
「どうぞ」

意外とあっさり通してくれるもので、その手伝いの女性の後ろについていけば、一室通された
薄暗い部屋
光がないと段差に躓きそうなくらいの明かりしかなくて、なんとかその部屋にあがれば、声がして弱弱しいがライトがついた

「キバ‥?」
「‥んお、元気そうじゃねぇかよ‥。」

意外と元気そうなシノは、平然とした顔で俺の前に立っている
いつも後ろにあげられている髪は下ろされていて、サングラスもかけていないけれどその声ですぐにシノだとわかった

「なにをしに、きたんだ。」
「なにって、見舞い、だよそれに‥いい加減俺らの班もどうにかしたほうがいいって、思ったから‥。」
「そう、か、まぁいい奥にこい」

部屋に通されて適当に椅子の上に座る
机の上に置かれたいくつかの薬を見ていれば、すこし眉間に皺をよせていつも寝ているのであろうベッドに腰かけた

「いつもこの量の薬、飲んでんのか?」
「‥‥あぁ、飲んでいないと、眠れない上に全身が痛むんだ。」

いつもはこんなこと聞いたって無言ではぐらかすだけなのに、普通に応えて目線を横に逸らす
初めて見た瞳は、とても綺麗だった
赤紫色の綺麗な色で
でもそれは病気が原因でそんな色になってしまったのだときいた

「‥お前の病気って‥治るもんなのか?」
「‥いや、現時点では見つかっていない」
「じゃあ治るまで外には出れねぇのか?」
「そうなるな」

淡々と答えていたがその瞳には少しだけ困惑が混じっている
無意識に、俺はシノの頬に手を伸ばした
びくり、と肩が震えた
やっぱり、彼の左目は見えていなかった
左から死角になるであろう場所から触れてみればやはり、わかっていなかったのか肩を震わせて驚いたようにしていたのだから

「‥なんで隠してたんだよ」

息を詰まらせて震えているシノはおずおずと俺の手に触れてきた
指先まで震えている

混乱しているようで、シノは視線をうろうろとさまよわせてようやく俺の方を向いて、見えない左目から流れたのは、涙ではなく、赤い赤い血で

「シノ‥?おい、大丈夫か‥?」
「左目が‥痛い‥キバ‥ったす‥け‥て‥。」

ぎゅっと服をにぎる手が白くなるほどに、力が込められている

「おい!」
「‥キバ‥はぁ‥、っは‥。っあ‥。」

左目に布を当てて、誰かを呼ぼうとしたがいるのはお手伝いの人くらいらしく屋敷の者は全てで払っているらしい

「くそ、どうすりゃ‥いいんだ‥。」

そうしていれば、自分を呼ぶ高い声が聞こえる

「キバ君‥どうしたの?」
「シノが、あぶねぇ状態なんだよ!」

一気に表情が凍りついて、ヒナタが駆け寄ってくる

「病院に行かねぇと‥。」
「っ‥は‥すま、ない‥。」

ばっと体を離したシノはゆっくりと自分の足で立つ

「無理すんな!とりあえず病院に行くぞ!」

その体を支えてここからさほど遠くはなかった病院に駆け込んだ
待合室でただただ流れる静寂
しばらくして処置を終えて、薬の影響で眠っているシノのいる病室に通される
左目は包帯で覆われていて右目は長い睫毛に縁取られた瞼が覆うだけで

「もう少し遅れていれば右目も失明していたところでした。」

そうとだけ言って部屋から出て行った医者の背中からシノに目を移す
ヒナタは少し時間をおいてまた会いに来るということで今は紅先生と待合室にいる
なにをするでもなくただ無言でその顔を眺めていると薬が切れたのかゆっくりと瞼を開いたシノがゆっくりとこちらを向いた

「この点滴が終わったら帰ってもいいってよ。」
「‥そう、か‥迷惑を、かけた‥。」
「別に迷惑なんかじゃねぇし、気にすんな」

頬杖をついたまま俺はそういいつつシノの髪に触れた
意外と長いそれを指に絡めながら俺は話を続ける

「なぁ、お前って、ちゃんと、月とかそういうの見たことあんのか?」

首を横に振ったシノはなぜそんなことをきくのだ、とでもいいたげな表情で俺の顔を見ている
するりと頬に指を滑らせて唇をそっとなぞる

「ほら、この季節さ、紅葉とかの季節だろ?」
「‥あぁそうだな‥。」
「だったら‥さ‥お前が‥みたことねぇんだったら‥。」
「だが‥たとえ月の光でも‥。」

そっと指先を唇にあてて、俺は椅子から腰を上げてシノの顔の横に手をついて顔を近づける

「今まで、ごめん。」
「‥キバ‥‥?」

頬を濡らすそれが俺の頬からシノの頬に落ちて、びっくりしたように右目を見開いたまま言葉を失っている

「‥俺がわがままいって‥皆困らせてた。だから、そのお詫びにって‥夜でもいいから一緒に、お前と月とか紅葉を見にいきてぇ。」
「だが‥。」
「そんなんどうにかなるって」
「‥‥わか、った。」

シノから体を離して背を向ける
すると看護師がやってきてシノの腕から点滴針を抜いて、お大事にと言ってそのまま部屋を出て行ったのを眺めていればシノは上着を着て立ち上がった

「もう歩けそうか?」
「あぁ」

先に部屋を出て待合室に向かえば安心したような表情の紅先生とヒナタがいてそこまでシノと並んで歩いていく

「無事なようで、よかった。」
「すみません、心配をおかけした、ようで。」
「いいのよ、とりあえず無事だったんだから、今日はゆっくり休みなさい。」
「はい。」

病院を出て途中まで話をしつつ、人通りのない夜中の街の中を歩いて十字路で紅先生とヒナタと別れそのままゆっくりと歩いていれば、明日は休みだということで今の今まで先生も付き添いのもと焼肉を食べていたナルトやシカマル達が帰っているのを見つける
通りも暗く街灯も切れていたからあいつらに見つからないように二人でその横をすっと抜けてまた静かになった通りの真中で立ち止まって振り返る

「そういや、‥俺らの班だけだよな。ああやって、一緒に飯行ったことないの。また今度行こうぜ。」

何も言わないシノは視線を反対方向に向けてまた歩き出した
俺はそれを追いかけてシノの横に並ぶ

「今から、ちょっといいか?まだ帰ってこねぇんだろおまえんちの親とか。」
「あぁ、明日の昼ごろだ。」

そう言ったシノの腕を掴んで歩いていき、俺の家の近くにある誰にもまだ知られていない、紅葉の綺麗な場所があるのだ
丁度薄い雲に隠れて弱くなっている月に、少しおびえるようにして瞳を向けるシノを眺める
そこで心を奪われたんだろう
やはり少し目に負担がかかったのだろう、目を細めたシノはゆっくりと首を下に向ける
ぐっとその腕をひきこんで橙色、黄色、朱色に染められた地面に積もった葉のベッドの上に倒れこんでシノの目を光から守るように、影になるように上に覆いかぶさって至近距離で見つめ合う
大きく見開かれたその瞳にすいこまれそうだ

「シノ」
「‥‥キバ‥。」

シノが俺の名前を呼んだのを聞いてそっと唇を重ねる
頬に指を這わせて髪を絡めて、何度も、何度もしつこいくらいにキスの雨を
ゆっくりと唇を離してその頭を抱きこむ

「キバ‥キ、バ‥‥。」
「どう、したんだよ」
「‥あ、りがとう」

はじめてきいたシノの感謝を伝える言葉
指を絡め合って色とりどりの葉に身をうずめながら、至近距離で笑いあった
ひらり、ひらり
舞う葉が俺とシノの体を包むようにして、抱きこむようにして覆ってくれるのを感じながら
俺はもう一度シノの薄い唇にキスを落とした








シノの病気が完治したのはそれから数か月後のこと、真冬のこと
もしかしたらきくかもしれないという薬が見つかって試してみれば、ゆっくりではあるがシノの病状はよくなってようやく、シノが俺とヒナタと久しぶりに任務ということになった

「シノ、お前本当に大丈夫なのかよ。」
「お前に言われなくとも大丈夫だ。」
「無理しないでね‥シノ君。」
「わかっている。すまないな」
「なんだよ俺とヒナタの扱いの差!!!」
「性格だろうな。」

そうさらりと述べてるシノを睨みながら軽口を叩いていれば紅先生がきて久しぶりにそろった三人にやっぱり、この三人がいいわ、といってそれぞれの頭をぽんっとなでた

「さて、今から任務よ、がんばっていくわよ、ただでさえ他の班からおいてかれてるっていうのに。」
「んなもんすぐおいついてやるって!」
「あまり猛進するなよ。」
「うるせー!」

やっぱり、この空気が俺には心地いいのかもしれない
深かった溝も、埋まって、ずっと距離が近くなった気がした
俺はしんしんと降り積もる雪の道に足を踏み出した













きみのかなしみもぜんぶぜんぶ
(けしてあげるから、しあわせな、ゆめを)














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