じぇぬいぬ  | ナノ


電源のオンオフにはご注意を

嵐山先輩達と別れた後、私は隊長と一緒に学校へ向かっていた。報告は嵐山さんがやってくれるらしいので、安心して学校への道路を進む。終始不満げにしかめっ面だった木虎が若干心配ではあるが…。

「これで何回目だ…市街地にゲート開くの……」
「これが初めてじゃないの?」
「昨日の夕方以降から危険区域外に開いてるらしい。今本部ではそのイレギュラーゲートの原因を必死になって調べてるみたいだぞ。……え、知らなかったの?」

昨日、お前本部にいただろ?目を丸くしている海夜に、少し頭の中の情報を整理してみるが、記憶の中にそんな話を聞いた覚えは全くない。うーんと唸っている私を見かねて、嘘だろ……と呆れている隊長。そんな重要なこと、なんで知らないんだろう、そこで昨日の自分の行動を振り返って見てあることに気が付く。

「わかった」
「ん?」
「出水と双子と模擬戦しまくってたからだ」

遅くまで模擬戦を続けていれば外部からの連絡は一切入ってこない。私は情報を周りからの口コミに頼っているため、これではイレギュラーゲートのことを一切知っていなかったのも頷ける。

「ああーすっきりした!」
「てことは、双子も知らなさそうだな……。今度から重要なことはちゃんと俺から連絡しよ……」
「はは、ごめん」

丁度同時刻、別のイレギュラーゲートが発生しそれに駆り出されたのがうちの双子だったらしい。何も知らない2人が、なんで!?どうして!?と騒いでいる姿が容易に想像できる。盛大なため息を付いて頭を抱えている我らが隊長の疲労がたまる原因が少しわかった気がした。

「隊長…まあ、どんまい」
「誰のせいだと思ってるのかな?」
「双子には私からも言っておくよ」
「生緒、お前もだからな?」

じとり、と恨めしそうな視線を送られているのが見なくてもわかった。あえて、目を合わさないように、長く続いているきちんと整備されてある道路を真っすぐ見つめれば、再度隣からため息を付く音が聞こえる。今度なにかお詫びにお菓子買ってあげようと、こっそり決意した。

「それにしても、今回ばかりは位置が悪かったよな」
「そうねえ」
「流石にな、あんな学校の近くに出てこられると心配になるよなあ……」

隣を歩いていた海夜がぽつりとつぶやく。その言葉に、先程到着した時の光景を思い出していた。嬉しそうに思わぬヒーローの登場に盛り上がっていた生徒たち。たまたまあの学校に優れたトリガー使いであるメガネ君がいてくれた、だからハッピーエンドで済んだわけだが、もしその偶然がなかったら。そう思えば自然と気持ちも下を向き、色彩のないコンクリートの足元に視線を落とした。

「今回はたまたま運が良すぎたから良かったけど。次も、その次も。そう都合よくははいかねえよな」
「そうだね」

ちらりと脳裏を過ぎるのは、四年前の景色。もう二度と見たくないのに、どうしても頭にこびりついてとれない地獄のような絵が蘇る。

「はやくどうにかしねえとな…」
「……うん」

ふと空を仰げば、そこには晴天が広がるばかりで、雀と思われる小さな鳥が5羽ほどパタパタと電線に向かって飛んで行った。青く澄み渡る平和なこの空に、いつあの禍禍しいゲートが開くかわからない。今そんな状態なのだと思うと、むくむくと胸の頂をつくものがある。

「つっても、今は待つことしかできないんだけどな」
「…そうだね」
「まあ、でも俺達は戦えるんだから、今は自分たちにしかできないことしよーぜ」

そういって隊長は落ち込んでしまった心を鼓舞する。見れば眩しい程の明るい笑顔をしている彼に、口元が少しばかり緩んだ。確かに私たちが戦えることは間違いない、でも先程みたいに間に合わないことだってある。胸に残る不安のせいでその言葉に同意できないでいれば、な?と念を押されてしまい、仕方なくゆっくりと頷いた。

「にしても被害者が1人も出なくて良かったな」
「うーん…そうだねえ」
「なんだ、その納得のいってない感じ」

手持ち不足なのか、トリガーをひょいっと上に投げて遊んでいる隊長を横目に、口元に手を当てて考え込む。

「なんか引っかかるんだよなあ」
「へえ…?」

そういって思い出すのは先ほどの中学校で出会った2人の顔。2匹のモールモッドを訓練用の武器で一撃で仕留める能力を持っているC級隊員の眼鏡の青年。どこか胸にひっかかる不思議なオーラを纏う白髪の青年。絶対に何かある、そう思えてならない。

「あの2人、絶対何かある」
「メガネと白いちびか?」
「そう」
「ちび、不思議な奴だったよなあ…雰囲気とか大人っぽいつーか…そういえば日本では人助けるのに許可いるのかって、まるで日本にいなかったみたいな」

アスファルト道を真っすぐに歩んでいた足をふと止める。日本にいなかった、じゃあそれまではどこか別のところにいたとも言える。その別の場所、それがもし近界だとしたら。

「……」
「…おい?」
「陽介の気持ち、少しわかったかもしれない」

もし、彼がネイバーなのだとしたら。ううん、きっと彼はネイバーだ。そうすれば、昨日の未知のトリガーの痕跡、あの意味深な発言、謎の違和感も、全て辻褄が合う。面白いことが起きる、そんな予感がして少しワクワクする。敵か味方かもわからない、なにをしてくるか、何が目的かも分からない未知の相手に、もちろん恐怖心がないわけでは無い。それでも、少し波乱がおきそうな、なにか起こりそうな、そんな予感に、高揚感を感じていた。今日の朝、陽介もこんな気持ちだったのだろうか。解けなかったパズルが、思いもしないうちに解けたことに思わず口角をあげる。

「どうした?」
「ううん、なんにもない」
「そっか?」

ニヤつくのを堪えながら、そう返せば、隊長は大して気にする様子もなく前に視線を戻した。

「そういえば海夜はいつからいたの?」
「うーん、嵐山さんが弟たち抱きしめてるあたりかな」
「結構前からいたんだな」
「はは、どっかの誰かさんが通信機起動してないから結構焦ったわ」

あ、地雷を踏んでしまった。そう気づいた頃にはもう手遅れで、なんとなく隣からどす黒いオーラを感じる。言わなきゃよかった、と後悔してももう遅い。

「にしても、生緒さん」
「ぎくっ」
「言いたいことは、わかってんな?」

肩にポンっと乗せられた手は、一見、力の入っていないようで、がっしりと私の肩を捉えている。それだけでも、逃げきれない、そう私が悟るのには十分な材料だった。

「なんで通信機つけてないかなあ?」
「は、ははは…急いでたから…」
「あれほど日ごろから口酸っぱくして言ってるだろ?」

なあそうだよなあ、と笑みを浮かべているのが視界の端にうつってる。なぜ直接見ないのかと問われれば、理由は簡単。直視できない程怖いのだ。

「すみませんでした」
「ほんとに?反省してる?」
「してるしてるすごいしてる」

そうすれば、はあと大きなため息とともに肩にあった手が外される。その顔は少々くたびれているように見えた。

「その返事の仕方心配だわあ」
「大丈夫大丈夫」
「その反復の仕方がさあ…」
「はいは一回って小学校の頃よく言われたよね」
「よくご存知で……。まあ、お前は強いしそんな簡単に負けるわけもないってこと知ってるんだけどさ…」

再び学校のある方向へ向かって歩いていく彼の背中に続く。先程の騒動のせいなのか、街中にはあまり人影がない。そんなだから、海夜の声が鮮明にききとれた。

「心配なんてしなくたっていいんだろうけどさ…」

どこか迷っているような、歯切れの悪い言葉に、私は首をかしげた。しかし海夜は、私の方を向く素振りをみせず、ただ真っ直ぐ前を見つめて歩いていく。

「まあなんだ」
「ん…」
「あんま、無理はすんなよ」

そう言った彼がどんな顔をしているのかは、私には見えない。落ち着いたような、切羽詰まったような、複雑な色が混じりあったようなその声からは、彼の心情を読み取ることが出来かった。

「海夜、それは……」
「まあ、それと通信機の子とは別話だけどな」
「ああやっぱりそうなる?」

ようやくこちらに振り返った彼の顔は、珍しく意地悪い笑みを浮かんでいる。いたずらがバレてしまった子供のように、心臓が脈打ち始める。説教されないで済んだ、と一瞬でも喜んだ私の気持ちを返してほしい。

「当然説教はするぞ」

これから始まるであろう、説教と、それに費やされるであろう長い時間を想像して密かにため息を付いた。
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