じぇぬいぬ  | ナノ


晴れてる日ほど

「おい、生緒きいてる〜?」
「おおー聞いてる聞いてる」
「ほんとかよ」

頬杖を付いて窓の外を眺めていた。真っすぐ地平線の先に見える、異質な建物。見渡す限り広がっている住宅地の中心で異彩を放つそれ。その巨大で目立つボーダーの基地をぼんやりとみつめて、今日もあそこへ行くんだなあなんて考えていたときのことだった。突然、生緒!と大きい声で名前を呼ばれる。本日何度目かの出来事にまたか、とそちらへ顔を向けると、さぞ楽しそうな表情でこちらへ向かってくるクラスメイトの米屋陽介の姿があった。そして彼は朝もした話を飽きずとまたしてくるのである。うんうん、へえへえ、そう雑な返事を返して聞き流していれば、流石に気づいたのか、ツッコまれてしまった。

「マジですごかったんだぜ?!」
「だって朝もしてたじゃんその話」
「だってすっげえじゃんか!バムスターやったやつがボーダー以外の何かかもしんねえんだぜ!?」
「いたっておかしくないでしょ!あっちこちパカパカとゲート開きまくってんだからそういうなんかがこっち来たって…!」
「まあそうなんだけどさ!」

興奮しているように目を輝かせている米屋の様子に、私はうんざりと口を尖らせた。

「すっげえんだって!結構派手にやったみたいで地面へこんでてさ!あれはA級クラスの戦闘力をもつやつの仕業だぜ!」
「へえへえ」
「でも武器はボーダーのものじゃない!となれば…」

どんな奴だ、敵なのか、それとも意外と味方だったり?ワクワクした様子でそう騒いでいる陽介。こいつもほどほどに戦闘狂だよなあなんてぼんやり考えてみる。まるで敵だろうが味方であろうがどちらでも大歓迎みたいな態度だ。

「ふつう、敵だった場合どうしようとかなるもんでしょ」
「ん?そうか?」
「そりゃだって……ん?」
「生緒ちゃああああああああああああああああん!」

バタバタと徐々に大きくなって行く足音にそちらを向けば、それは私の机に体当りをしてピタリと止まる。すごい勢いで私の机に雪崩れ込んできたのは、私の隊のオペレーターである白石雪だった。どこから走ってきたのかその息は大きく乱れていた。

「よ!白石元気そうだな!」
「よ、米屋くん…おはよう…!」
「ど、どうしたの雪くん、そんな息切らして珍しい…」

ぜぇぜぇと肩を激しく上下に動かしているのをみるに、相当慌ててここまで来たのだろう。どちらかと言えばおどおどした性格のせいで、こう取り乱している様子はよく見るけれども、如何せんここは学校だ。安全な学校で、彼がこうも取り乱すなどよほどのことが無い限り……

「昨日ゲートが出現したところに三輪隊が駆け付けたらすでに…大型トリオン兵が…ば、バムスターが…倒されてたらしいんだけど!結構バラバラらしくって!傷跡がボーダーの武器のものじゃないらしくって…!どうしよう!敵だったらどうしよう!!」
「雪…」
「米屋君もきっとみたんだよね?どうしようきっと怖い人だよ未知のトリガーだよ嫌な予感しかしない…うわああ…」

まるでこの世の終わりが来たかのように私の机に頭を抱えて縮こまってしまった雪に、私も米屋も言葉を失っていた。さっきまではしゃいでいた米屋もクラスメイトの怯え様に困った笑みを浮かべながら、そのハリネズミのように丸まっている肩にあやすように手を乗せる。

「陽介…」
「ん?」
「この反応が普通だと思う」

そう、まさにこれが言いたかったのだ。普通であればこう、どうしようと心配するものである。……もっとも、彼の場合は少々行き過ぎな気もするが。

「ははっ、まあ白石もそんな心配するなって!」
「で、でもでも…」
「まあいざとなればお前んとこの最強部隊がなんだって倒してくれんだろ!なあ生緒?」

そう言ってにやりと意地悪い笑みを送ってくる陽介。やだ。無理。本来であればそう言って突っぱねる所であるが、その言葉に机からゆっくり顔を上げた雪の瞳が不安そうに揺れていて、中々そうは言いづらい。

「最強ではないけど…まあいざとなればね」
「よぉーさすが生緒!」
「陽介お前…」

絶対こいつ楽しんでんな。茶化すような言葉と同時にぱちぱちと周りを気にせずに盛大な拍手をしている陽介を見て、そう確信する。

「まあその時は陽介も戦ってもらうからな?」
「俺いなくても余裕っしょ」
「いるいる、盾が欲しい」
「いやーそう言われちゃいくしか…って、俺盾かよ!」

さすがのコミュ力の持ち主というべきか見事なノリツッコミをしてみせた陽介を見上げる雪は、さっきまでの不安そうな顔はどこかへいったのか、穏やかな表情を浮かべ、微笑んでいた。

「まあ白石あんま心配すんなよ、ボーダーは強いやついっぱいいるんだから、強いのが1匹や2匹来たくらいじゃ負けねえって」
「うん!」
「そうそう、そうこなくっちゃな!」

陽介に肩を組まれて、控えめに笑う彼。その仲睦まじい様子に私も満足して頷いた。

「うんうん、さっきまでそれと戦いたがってた戦闘狂の誰かさんとかいますからねえ」
「ばっお前…」

突如、がっと勢いよく腕を掴まれて、後ろの方に連れていかれる。そして雪に聞こえないように耳元でコソコソと話し始める。強制的に強い力で腕を引っ張られたおかげで、立ち上がった拍子に椅子に腰のあたりを強打してしまった。

「いった……」
「お前なんでそう余計なこと言うんだよ!」
「だって本当のことじゃん、まずかった?」
「このタイミングであんなこと言ったら、俺が白石にこいつやべえって思われるじゃん!」
「思われるねえ」
「お前確信犯かよ!?」

ぶっちゃけ、雪じゃなくてもあの場面ではしゃいでられるの見たら、誰でもやべえと思う気がするがな。密かに思いつつ、視線を後ろにちらりと向ければ、取り残された彼がきょとんとしてこちらをみつめていた。


「あの、大丈夫?」

ごにょごにょ話している私たちを見てか、米屋の焦った雰囲気を察したのか、心配そうな声がかかる。

「お、おう白石!大丈夫だ!」
「よかった……あの、さっきの戦闘狂とかって…」
「ああああ!それは気にしなくてもいいぞ!なぁ生緒!?」

明らかに陽介の挙動が不審になっているのが、面白くてもっとからかいたくなってくる。

「…うーんどうだったかなあ?」
「生緒…」

何処に行ってしまったのだろうか、クラスメイトである出水公平のことが恋しくなったのか、出水早くかえってきて〜と弱弱しく嘆いた陽介を見て、ほくそ笑んでいる私はつくづく性格が悪いようだ。
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