じぇぬいぬ  | ナノ


真っ白いパズルのような

扉に向かって前進する。やっと離れた迅の腕に、今度こそ帰れるんもんだと高をくくっていた。

「おぇっ!?」
「それはできません」

しかし突如前方に出現した逞しい腕に苛まれてしまい、その予測は呆気なく覆されてしまう。おまけにそれが勢いよく首に絡みついて来るもんだから、大勢の前で恥ずかしい嗚咽が零れてしまった。周りは迅の台詞に動揺して私の嗚咽どころではないらしいが、私はそれこそどうでもいい。

「俺は玉狛支部の人間です」
「おい迅」
「城戸司令に直接の指揮権はありません」
「てめえ、なにしてくれてんだ」

しかし、迅は私の声など聞こえていないとでもいうように見事スルーを決め込んで話を続ける。フツフツと煮えくり返りそうになる感情を抑えきれず、未だに首を拘束している彼の腕を掴む力を強める。

「俺を使いたいなら林藤支部長を通してください」

込めた力を増しつつ、耳に入ったその言葉にそっと口を閉ざす。睨みつけるようにしてその顔を見上げ続けていれば、不意に視線が交わってパチンとウィンクが飛んでくる。全くもって意味が分からん。理解しきれない迅の行動の数々に思わず眉をひそめた。

「林藤支部長、命令したまえ」
「やれやれ、支部長命令だ。迅、黒トリガーを捕まえてこい」
「はい」
「あ?林藤さん何言って……っ!」

たばこをくわえたまま林藤支部長が迅へ向けた台詞に目を見開く。林藤支部長であればこの状況を何とかしてくれると思っていた私は、咄嗟に前へ出て抗議しようとするが、それを迅の首に回された逞しい腕が許してくれない。

「ただし、やり方はお前に任せる」

その言葉に再度眉をひそめた。状況についていけず林藤支部長を見つめる。

「何をボケっとしてるんだ、生緒」
「は?」

茶化すような言い方で呼ばれた名前に肩が跳ねる。私に視線を向けていた支部長が、にかっと浮かべた不敵な笑みに、思わず息をのむ。

「お前も、今は玉狛支部の人間だ。ちゃんと支部長命令を聞いてもらうぞ?」
「何言って……」

ふと脳裏を過ぎるのはずっと胸に霧がかるように残っていた台詞の数々。

“俺も詳しくは知らないが、お前が1人だけ玉狛に引き抜かれた、そこには何らかの理由があると思っている”

“それにお前を玉狛に呼んだのも、別にお前を利用したいわけじゃない”

“お前の助けになりたい、お前の力を借りたいの半分ずつだな”

頭の中で、今までずっと解けなかったパズルのピースが、ぴたりと気持ちが良いぐらいにはまっていく。私は城戸司令の命令通りにブラックトリガーを奪い取らなければいけないとばかり思っていたのに。ゆっくり迅を見上げれば、頼もしいくらいに眩しい笑顔の迅と視線がかち合った。

「林藤……」
「ご心配なく城戸さん。ご存知の通りウチの隊員は優秀だからな」
「叶を引き抜いたのはこういうことか」
「いやいやまさか。たまたま人手不足だったところを助けてもらいたかっただけさ」

いやぁ〜戦力はなんとか気合で補えるけど、人数と手の数は流石にどうにもならなくてね、少数精鋭の困ったところですなあ。なんて呑気に笑っている林藤支部長にあっけにとられる。すると迅がこっそりと耳元で、「わかっただろ」なんて言ってくるものだから、眉を顰める。

「……それならそうとはっきり言って」
「はは、相変わらず手厳しい」

じゃないと、今までの行動、全部私が馬鹿みたいじゃないか。今までの自分の行動を思い出して頬が熱くなる。迅に利用されているなんて少しでも考えた過去の自分を殴ってやりたいくらいだ。

「実力派エリート迅!支部長命令により任務を遂行します!」

そう言って子供っぽく敬礼のポーズをして見せた迅を見ていると、お前はどうする?挑発的なセリフが降ってくる。もちろんそんなのどうするかなんてとっくの昔に決まっている。

「同じく叶、支部長命令により任務を遂行します」

そう言えば満足そうに微笑んだ迅がメガネ君に「行こうか」と言ってその頭をポンポン叩く。三雲君も展開の流れについていけなかったのか、はいと威勢のいい返事をするまでに数秒間があった。後ろで鬼怒川さん達がブーブー言っているが気にせずに、三雲君の背中をぐいぐい押して、とっととずらかろうとする。

「三雲くん、ちょっといいかな?」

それを止める様に唐沢さんが口を開いた。さっきから三雲君を何やら興味深そうな眼差しを送っているなとは思っていたが、なにか彼に惹かれる所でもあったのだろうか。「相手が何を求めているか、それが分かれば交渉は可能だ」そう語る唐沢さんの瞳には好奇心のような期待の色が垣間見えた。

「君の友人のネイバーがこっちに来た目的は何なのか、君は聞いていないか?」
「目的……そういえば」

目の前の三雲君が何かを思い出す。

「父親の知り合いがボーダーにいる、その知り合いに会いに来た……たしかそう言っていました」
「父親……?」

その言葉に思わず固唾を呑み込み、そっと自身のブラックトリガーに手をかけた。ネイバーの父親と知り合いなボーダー隊員は一体誰だろうか?旧ボーダーの頃からいた大人たちが真っ先に頭に浮かぶが、知っていそうな忍田さん達ですら誰のことだ?なんてピンと来ていない。

「その父親の名前は?…いや友人本人でもいい」
「父親の名前はわかりませんが、本人の名前は“空閑遊真”です」

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