じぇぬいぬ  | ナノ


交差する策謀

さてと、そんな呟きが聞こえて生緒はハッとする。そういえば、こいつと次会ったら1人にしたこと文句言ってやるんだった。殴り飛ばすつもりで彼女はずんずん、わざと足音を荒立てながら迅の元へと近寄っていく。

「あの娘、スナイパーと遊真の間に大量の球状のトリオンを撒いていた。恐らくスナイパーの視界を悪くした上で、スナイパーの攻撃が当たり爆破した際の爆破音で、いち早く遊真に攻撃を察知させるためだろう」

一方で迅の元に歩み寄って行く生緒を見つめながら、三雲はレプリカと話をしていた。迅と供にやってきたレプリカが言っていた建物の上にいたスナイパーを、目の前にいた彼女がどうやって止めていたのか気になったため、三雲がレプリカに質問したのだ。

「球状ってさっきまであの人たちの周りにあったようなやつか?」
「うむ、遊真と戦闘している2人が倒れた周りにも常に攻撃の玉を撒いていたのは、遊真が下手に近寄れないようにするためだと思われる。彼女の立ち位置といい、遊真を相当警戒しているように見えた」

そこで三雲はハッとする。彼女はてっきり遊真の味方なのだと思っていたがどうやらそれだけではなかったようだ。迅がああ言ったとはいえ、彼女にとっては未知のネイバーというだけの存在、心を許したわけではないようだ。

「それにしてもあれだけのトリオンを惜しみもなく使うとは、もしかしたら彼女も相当高いトリオン能力を持っているのかもしれない」

三雲は少し複雑な感情で彼女たちの後姿を見守っていた。





「ちょっと迅!」
「お、なになに?告白?」
「ざっけんな。あんたか弱い女子残して、どこいってんのさ」

両方の服の襟をグッとつかんで、前後に揺する。そうすれば、謝るどころか迅は呑気にアハハと笑いながら「じゃれつくなじゃれつくな〜」なんて言うものだから、なおさら頭にきてお互い生身ということも忘れてみぞおち目掛けて膝を上げる。

「ぐふっ!?」
「……え?あ、ごめん」
「生緒も成長したな……」

少しよろめく身体を慌てて支える。中学生3人がそんな私たちをそれぞれ異なる様子で見守っていて、背筋が凍り付きそうになった。まっさらな用紙に泥をかけて汚したような心苦しさに、今すぐ逃げ出してしまいたくなった。

「三輪隊だけじゃ報告が偏るだろうから、“俺達”も基地に行かなくちゃな」

みぞおちを蹴られたことによる痛みからか丸まっていた背筋を、ゆっくり正した迅だが、その額にはうっすらと汗が滲んでしまっている。

「メガネくんはどうする?どっちにしろ呼び出しがかかると思うけど」
「じゃあ僕も行きます」

空閑と千佳はどこかで待っててくれ。千佳、空閑は日本のことをよく知らないから面倒を見てやってくれ。その言葉に二つ返事で頷く彼ら、どうやら三雲君はオカン属性らしい。この展開、これは良いチャンスだ。

「なるほど、じゃあお姉ちゃんが三門市を案内っ……ねえ迅」

小さな2人の方へ移ろうと歩み出た瞬間、ガシっと効果音が付きそうな勢いで腕を掴まれる。振りほどこうと左右に振ってみるも虚しく、ヒルのように離れないその腕に、迅を睨みつける。どういうこと、問うよりも前に迅が微笑んで口を開く。

「お前はこっちだ」
「意味わかんない!!」

負けてたまるか、上下に大きく振りかぶる。ぶんぶんと勢いよく振っているのにも関わらずに、迅の腕が私の手首を離すことはない。怪我するぞ、なんていう空閑遊真の言葉も無視して振り続ける。

「1人で行けよ!私いなくてもいいでしょ!」
「迅さん寂しいから一緒に来て」
「知らん離せ」
「わがまま言わないの」
「我がままはどっちだよ!!」

必死の攻防も虚しく迅に本部へ連行されることになった私の顔は、終始ふくれっ面であったと迅と三雲が語るのだった。






「なるほど。報告ご苦労」

会議室の中央で胸の前で腕を組んでいる城戸さんがひと言だけ声を発した。何がご苦労だ、心の中で悪態を吐きながら、そっぽを向く。無理やり連れてこられたと思えば、迅の奴、こんな胸糞悪い場所まで来させやがって。お偉いさん方がずらりと揃ったこの会議室の息苦しさったらない。今すぐ逃げ出したい私の心の内が読めているのか、腕は相変わらず迅に握られたままである。駅からここまでずっと握られているせいか繋がった手首と迅の手のひらの間が、熱がこもっていて少し気持ち悪い。

「まったく……前回に続いてまたお前か。いちいち面倒を持ってくるやつだ」
「別に三雲君悪く無いでしょ、寧ろ巻き込まれた側に見えるけど」
「それによりによって、なんで叶、お前がいるんだ」
「あ?いちゃ悪い?」

さもめんどくさいというように眉間に皺を寄せ、こちらを睨みつけてくる鬼怒川さんの敵意むき出しな対応に、頬の筋肉がぴくりと痙攣するのが分かった。

「相変わらず口の悪い。お前はもうちょっと女子らしく大人しく出来んのかね」
「それ今の時代セクハラになるんですよ知ってました?」
「なーにがいっちょ前にセクハラだ」
「なーにが……じゃないわ、時代考慮しろこの古だぬき」
「なんじゃと!?」

そこで隣にいた根付さんが困り顔でまあまあと身体を乗り出そうとした古だぬきこと鬼怒川さんを押さえつけている。それをわざとらしく鼻で笑えばお前もだ、と真横の迅からゲンコツが降ってきた。

「全く、お前はあん時の事件から一向に反省してないな……本来であればクビにしてやったというのに……」
「まあまあ鬼怒川さん、それは終わったことだしもう話すのはやめましょう」

ピクリ、肩を跳ねた私を抑え込むように腕の力を強めた迅が、空かさずフォローを入れる。迅の向こうにいる三雲君がその言葉に反応してこちらを向くのが見えた。ほら、私がこういうところに来ればこの話が出るに決まっているのだ。口を尖らせたまま再びそっぽを向く。話はすっかり空閑遊真のブラックトリガーの話に戻り、報告するべきだと根付さんと鬼怒川さん、三雲君にも考えがあったと援護する忍田さんが言い争っている。うんざりとして今度こそ迅の手を振りほどいて踵を返そうと考えたが。

「まあまあ、考え方を変えましょうよ」

そのブラックトリガーが味方になるとしたらどうです?余裕ありそうに口角を上げたまま話し始める彼を横目に見上げて留まる。なんだか迅は考えがあるようだ。

「メガネ君はそのネイバーの信頼を得てます、彼を通じてそのネイバーを味方につければ争わずに大きな戦力を手に入れることができますよ」

自信満々に言い切った迅に、馬鹿らしいと大きく溜息を零す。そんなこと言ったってこいつらが動くわけなんてないのに。ちょっと期待していた分損した気分だ。

「それはそうだが……」
「そううまくいくものかねぇ」

ほらこうなる。真正面、ピクリとも動かない石像のような城戸さんに視線を送る。そうしたら彼は真っすぐに迅から視線を動かさずに口を開いた。ドクン、心臓が大きく跳ねる。なにか物凄い嫌な予感がする。

「確かにブラックトリガーは戦力になる」
「ねえちょっと……」

得たいの知れない押し寄せてくる焦燥感に、隣にいる迅の袖を引っ張る。しかし彼は笑ったまま真っすぐ前を見つめている。

「そのネイバーを始末してブラックトリガーを回収しろ」

その言葉に目を見開いた。三雲君が焦るようにな!?と声を零している。そのふざけた考えが、さも良い案だというように同意する根付さんと鬼怒川さんを思いっきり睨み付ける。殴る、そう決めて前に出ようとするがまたもや抑え込むようにして伸びてきた手のせいで進めない。

「それでは強盗と同じだ!!」

それにその間の防衛任務はどうするつもりだ!忍田さんが力強く机を叩き声を荒げる。

「ブラックトリガーにはブラックトリガーをぶつければいいだろう、迅、叶」
「ほんっと……」

ふざけている、こんなアホらしいことを聞かせられるために私はわざわざここに連れてこられたのだろうか。ポケットに入っている2つのトリガーを握りしめる。人を何だと思ってるんだ。あの頃と立場こそ反対だが、まるで昔の出来事の映像をそっくりそのまま見させられているような気分だ。むくむくと沸き上がる殺意にも似たどす黒い感情を拳を結んでぐっとこらえる。

「お前達にブラックトリガーの捕獲を命じる」
「大っ嫌い」

呟いて踵を返す。迅の手があっさりと離れた。
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