じぇぬいぬ  | ナノ


虫だけはご勘弁

イレギュラーゲートの原因。ボーダー隊員総員を出動させるほどの原因とは、一体何なのか。それほど強いとでもいうのだろうか。その疑問はその後直ぐに解けるのであった。

「ほー、こんなトリオン兵もいるんだな」
「うっそだぁ……」

誰だこんな形にしようと思ったやつ出てこい、思わずそう叫びたくなってしまう。屈んだ海夜がその細い足を摘まんで持ち上げる。すると宙ぶらりんになってしまったその小さな身体は、胴体部分に生やしている6本の足をもぞもぞと動かし始めるものだから、思わず小さな悲鳴をあげた。

「ひぃ……!」
「ん……どうした生緒?」
「い…いやなんも」
「そっか?いやあ、しかしよくできてるよなあ」

まさかこんなのがイレギュラーゲートの原因だったなんてなあ。どこか感慨深そうに話しながら、その瞳はまじまじとトリオン兵にしては小さく、虫にしては大きなサイズのそいつを凝視している。

「しかし虫そっくりだよな」
「良くお気づきで」
「やっぱ生緒もそう思うか?」
「もちろん」

何ならばそれを視界に入れてコンマ1秒の速度で虫を連想した勢いである。寧ろ隊長の気付くのが遅いぐらいだ。相変わらず、虫のようなトリオン兵を好奇心旺盛な眼差しで見つめる海夜から、そっと数歩離れて見守る。つんつん、と開いている手でそいつの腹をつついている様子はまるで子供のようである。

「いつまで見つめてるんですか」
「んー、そうだな」

さて、それを合図のように立ち上がりこちらへ歩み寄ってくる隊長、おそらくは後ろにあるトリオン兵がたくさん詰め込まれた袋の元へ向かいたいのだろう。しかし、その手には相変わらず、逃げ出そうとしているのか足を必死に動かしながら、ぶら下がっている奴がいるわけで。

「待ってくるな!」
「ん?どうした?」
「近寄らないで」
「ほう?お前もしかして……」

目を瞬かせている隊長を、両手を向けて制す。虫を見つめているイケメンは見ることはできるのだが、流石に虫を持っているイケメンはどうしても受け付けられない。つまり何が言いたいかというと、イケメンだからと言って、虫を持って近づかれることは許されないのである。

「来ないで来ないで」
「ほう……」
「なによ」

途端、にやりと整った顔が口角を上げる。珍しく見るその悪い笑顔に嫌な予感を覚えた。

「えい」
「ひっ、いぎゃああああああああああ」

すると見事に予感が的中する。掛け声と共にそいつを持った手をこちらに向かって突き出した。投げてきた、そう思った私は人目もはばからずに女性らしからぬ声を上げてしゃがみこむ。

「はは、ごめんごめん」
「……ありえない」
「いやあ、悪い。そんなに驚くとは思わなくてだな」

しかし何も身体にぶつかった感じはない、恐る恐る瞳を開けば、そこには申し訳なさそうに笑みを浮かべている海夜がいた。それをこの世のものではないのではないか、と疑うような目で見上げる。そうすれば彼はスマートに片手を差し出して、私を起き上がらせようとしてくれる。

「まあ許せ」
「無理、しね」
「いやあ、まじすまん」
「そいつとキスしろ」

そう言って背筋を伸ばして立ってもやや目上にある顔を睨みつければ、彼は困ったように眉を下げて笑う。流石にこのフォルムとは無理かな、なんて台詞を吐いた彼に、内心先程まで恋人のように見つめ合ってたじゃないかと思いながらも、じゃあどんな形であればいいのかと訊ねる。すると、バンダ―ならギリギリいける、と返ってきた。色々と想定外の展開である。

「あ!生緒先輩!それに海夜先輩も!」
「おお駿、昨日ぶり」
「相変わらず元気だな」
「今日も会えるなんて運がいいなあ!…でもごめん、今急いでるんだ!じゃあね!」

突如空から現れた駿、その手には隊長と同じように小型トリオン兵が、しかも2つも抱えられていて思わず目を疑った。流石わんぱく小僧、といったところか、それどうしたの、と問おうかと思ったがそんな間もなく、彼はグラスホッパーを起動して去っていく。まるで嵐のようだ。

「おいっ!待ちやがれ緑川!!それ俺が確保したやつだぞ!!!」
「ちょっと馬鹿!俺とおんなじ見た目で恥ずかしい真似しないでくれる!?」
「うるせえ!あの野郎今日こそしばいてやる」
「金太!……もう、こうなったらベイルアウトさせるしか……」

その後続きざま現れた、そっくりな見てくれの2人。それは紛れもなく我が隊の双子アタッカー達である。激しい剣幕で言葉を吐きながら現れた金太に、それを焦った様子で追いかけてくる響に、またやってるよと内心呆れていれば、その様子を見た隊長が慌てだす。

「え、ちょっとなにやってんの!?2人共!?」
「何って……鬼ごっこじゃない?」

それ以外に該当する言葉、私は知らない。

「いやいやいや!いま任務中だよな!?」
「……そうね」
「あんなの東さんや二宮さんに見られたら、何言われるか分かったもんじゃ……」

面白いぐらいに、彼の顔が見る見るうちに青ざめていく。トリオン体でもこういうところはしっかり反映されるから面白いよなあ、なんて他人事のように考えているのもつかの間、「ちょっと止めてくる」そう言うや否や慌ててグラスホッパーを起動させて双子を追いかける隊長にいってらっしゃいと呑気に手を振りながら送り出す。よし、アイツ等とは違い、真面目で良い子な私は任務をこなそう、振り返って歩き出す。そこでハッとした、1人ということはアイツを自らの手で捕獲しなければいけないのだ。

「いや、無理だ」

再度踵を返して、4人が去っていった後を追いかけようと決心した時、こちらに歩み寄る見慣れた3人の姿が目に入り、ふと足を止めた。
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