じぇぬいぬ  | ナノ


重なる影

「ありがとう!君がいなかったら犠牲者が出ていたかもしれない」

うちの弟と妹もこの学校の生徒なんだ、そういった瞬間、2人の男女がこちらを見てぎょっと目を見開き、お兄ちゃんと一言、苦い声を漏らした。嵐山さんは2人を視界に入れた瞬間、猛スピードでその2人を抱きしめにかかる。そのブレないシスコン、ブラコンぶりに若干呆れ気味に笑っていれば、隣にいる木虎ちゃんもやれやれとため息をもらした。

「相変わらずだなあ、嵐山さん」
「ですね、いま任務中だっていうのに……」
「まあまあ、心配だっただろうし大目に見よう」

当の本人は幸せそうにしているので、ほっぺを手で押しのけられたりしてめちゃくちゃ嫌がられているのは気にしない。ちらりとメガネの青年の方を窺えば、それまで後方で見守っていた白髪の少年が彼に歩み寄って行った。こっちはこっちで仲良しのようだ。

「しかし……、彼のしたことは明確なルール違反です」

ほのぼのとした空気の中、木虎ちゃんが口を開く。そのどこか怒気を含んでいるように鋭い言葉が聞こえた途端、風船を針で刺したかの如く、その場の空気をがらりと変えた。隣にいる彼女の顔をみれば、彼女が威圧的な視線を三雲に向けていて、嫌な予感を覚えた。

「でも彼は市民の命を救ったわけだし……」
「うん、ルールは破ってるけど、ボーダーの役目をこなしてるよ」
「紀律を守るためには、ルールを厳守するべきです」

どういうわけか木虎ちゃんはメガネ君に対してあまり良い印象がないのか、その鋭い視線からは若干の敵意に似たようなものを感じられる。

「つまり、彼はルールにのっとって処罰されるべきです」

場の空気が張り詰めたものに変わっていく。メガネ君のしたことは間違っていない。しかしながら木虎ちゃんの言い分も正しい。こういう時、頭の良い方の双子なら上手くまとめられるのに……そんな他力本願が頭をよぎるだけで、頭の回転が良くない私は、起点のきく言葉をみつけることができない。

「お前、なんでそんなに偉そうなの?」

その場にいた全員が白髪の少年に視線を向ける。全員驚いた様子で視線を向けるが、一番驚いたのは三雲君らしく、眼鏡の奥にある瞳を大きく見開いていて彼を見ている。

「人を助けるのに許可がいるのか」
「それは個人の自由よ…トリガーを使わなければの話だけどね。トリガーを使うのであればボーダーの許可が必要よ。同然でしょ、トリガーはボーダーのもなんだから」
「何言ってんだ、トリガーはもともとネイバーのものだろ?」

その言葉に心臓がドクンと嫌な音を立てた。彼はボーダーの人間ではないはずなのに、どうしてそんなことを知っているのだろう。真っすぐ木虎ちゃんをみつめている瞳、でたらめなんか言っていない。本気だ。さっき彼と目があった瞬間の違和感を思い出す。この少年、一般人なんかじゃない。この違和感はもしかして……。だんだん進んでいく口論に、頼るようにして嵐山さんに視線を送れば彼はぴたりと固まったまま2人の様子をみている。これ以上は止めなければいけない、意を決してその中に飛び込む。

「2人とも、1回おちつ…」
「はいはいそこまで。後は回収班を呼んで撤収するよ」
「現場調査は無事終了だ」
「とっきー…海夜…」

パンパンパン、リズムのいい手を鳴らす音に視線を向けた。もっと早く来てくれええええええ、と思いつつ、数秒前、中途半端に口を開いてしまったことを後悔した。壊された校舎の壁から出てきたのは時枝と我が隊長、蒼井海夜。隊長いつ来てたの?とか遅くない?とかいろいろ言いたいことがあるがそれはあとだ。木虎ちゃんは納得がいかない様子で、でも…!ととっきーに向かって何かを訴えかけていた。

「木虎の言い分ももわかるけど、三雲君の処分を決めるのは上の人だよ。俺達じゃない」

ですよね。嵐山先輩。すました顔のとっきーがそう問えば、嵐山はうん、と大きく頷いた。

「今回のことはうちの隊から報告しておこう。三雲君は今日中に本部に出頭するように」
「はい!!」

そうして真剣な面持ちの嵐山さんに対して、三雲君は背筋をぴんと正していい返事を返した。

「処罰が重くならないよう力を尽くすよ。君には妹と弟を守ってもらった恩がある、本当にありがとう」
「そんな、こちらこそ……」

そう言って口許を緩めて、右手を差し伸べた嵐山先輩。交わされる握手を見つめながらこれはまた嵐山隊の株があがったな、なんて呑気に考えていれば、ふと嵐山先輩がこちらに視線を向けた。

「な、生緒」
「へ?」
「さっきから百面相してるが…安心しろ、なんとかするから」
「ばれてたんですか」

見られていたこと、感情を読まれたことに羞恥心を覚え、目を伏せる。彼の今の状況はどうも、あの時の双子に重なってしまって、見ていると胸が締め付けられる。だけど私にはそれをどうにかする力がないのも事実。

「嵐山先輩、お願いします」
「大丈夫だ、任せておけ」

大きな手が、頭をポンポンと優しく撫でた。ああ流石はお兄ちゃん、慣れている。大きな掌から伝わる温もりに、胸につっかかっていたなにかが、ひとつだけすっと落ちた気がした。
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