じぇぬいぬ  | ナノ


しつこい男は嫌われますよ

「で、陽介今日どこ行ってたの?」
「そうだ、そのおかげで俺ひどい目にあったんだからな」
「あれは自業自得だからね?」

早朝にラインを送り付けてきた犯人、陽介の席を出水と共に挟んで立つ。そうして真ん中に座ってのんびりと牛乳パックに刺さったストローを吸っている彼を問い詰める。

「あぁー、まあちょっと極秘任務をさ」
「極秘任務だぁ?」

来て早々、両手を勢いよく机についた出水と私。しかし陽介はそんなのまるで効いていないとでもいうように、飄々とした様子でいつも通り返事をしてくるのだ。そんな彼の態度に、この方法では奴の口を割らせることはできないと察した。

「あんな早朝から何の任務するんだよ」
「だからそれを言えないから極秘なんだよ」
「そりゃそうだけどよ」

たしかにそう言われてみればそうだな。心の中で頷きながら、どうやって陽介の口を割らせようかと思考を巡らせながら会話を聞き流す。すると出水が突然おお?と冷やかすような、なんだか含みのあるような声を上げだした。

「さては、言えないような怪しいことしてたんじゃねえの?」
「怪しいこと?」
「そりゃお前、怪しいことだよ。あんなことやこんなこと……さ?」

出水はにやりといやらしく口角を上げた。いたずらに弧を描いたその猫目に、こいつ、何を言っているんだと眉を顰めようとした時だった。

「何言ってんだよ」

陽介の声から若干の焦りが伺えたような気がした。これは予想外にも効果があるのでは?証拠にほんの一瞬だったが、笑みを浮かべている陽介の口元が引きつったのを私は見逃さなかった。これは出水お手柄である。弱点を見つけてしまえばこちらのものだ。こういった弱点を突く戦法は性格の悪い双子に嫌という程見せられてきている。

「あっれ?陽介まさか図星??」
「なになに、お泊りデートでもしてたのか?」

机の反対側で悪戯な笑みを浮かべて陽介を見ている出水。きっと今の私も彼と同じ顔をしているんだろうな。そう分かっていても、緩んだ頬をおさえることができない。

「ははは、ちげぇよ、今日は秀次とだな?」
「へえ?三輪君と」
「え、お前らそういう関係だったの?」
「ちげえちげえ!」

その時、制服のポケットに入っている携帯がぶるぶると震えだして、その音に気付いたのか2人の視線が私の方に向く。取り出した液晶画面に表示されているのは“若葉弟”の文字で、私はいいタイミングだと、ほくそ笑む。

「双子から電話だ」
「ほう、でれば?」

そこで、私を見ていた陽介と目が合う。そこでにっこりと笑えば、陽介も笑い返してくれながらも「めちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど」と呟いた。

「ねえ陽介」
「なによ」
「双子が今のネタ聞いたら、喜んで聞いてくれると思わない?」
「いやあ、興味ないんじゃね?」

出水がくくくと腹を抱えて笑っているのが視界の端に見える。そろそろ電話に出ないと怒られそうだがあと一歩なのだ。後に怒られることを覚悟したうえで、ぶるぶると未だになり続けている携帯をそのまま握りしめている。

「お願い、何してたか教えて?」

そう言ってわざとらしく小首をかしげてみれば、陽介は頭を抱えてしまう。もちろん、彼と三輪君がお友達として健全な関係であることは百も承知である。寧ろ、だからこそ、この脅しが有効なのだ。我ながらひどいことを考えたものだ。

「…俺も人のことあんま言えねえけど、お前ひでえな」
「え、それ出水がいっちゃう?」
「そうなんだけどさ、改めて敵に回したくねぇって思ったわ」
「ほんとよ……」

2人の冷ややかな視線が注がれているがこの際気にしない。何かを覚悟したのか、すぅー、と大きく陽介が息を吸う。

「わかった、言えばいいんだろ」
「やったあ!」
「その前にその電話出てやれよ」

さっきからぶるぶるぶるぶる、可哀想だろ。そう言って気の抜けた顔で人差し指で、震え続けている携帯を指し示す。数回切れたにも関わらず、何度もかかり続けてくるスマホ。ストーカーレベルのしつこさに若干の恐怖を感じながら通話ボタンを押した。

「もしもし、響?」
「おいゴルァ生緒!!!」
「うっわ」

ボタンを押すやいなや、携帯から飛び出るほどの大声に思わず耳を離す。危うく鼓膜が破れる所であった。馬鹿じゃないの、あいつ。通話では相手に顔を見られることが無いことをいいことに、思いっきり顔をしかめる。

「うっさいんだけど、なにこの早朝に?」
「何じゃねえよ!散々シカトしやがって!」
「あーあー!私はキミとは違って忙しいのー!」

文句をかき消すようにわざとらしく声を荒げる。通話越しの奴はあからさまに苛立ちをぶつけてくるので、こちらも強い口調で返す。

「そもそもなんで響のスマホにあんたがでるのよ」

このうるさい声、荒々しい口調どう考えたって弟、響のものではない。しかし液晶画面に映っている文字は間違いなく弟、の文字なのだ。

「俺だと絶対でないからな!」
「失礼な、でるよ」

勿論、出られる状態なら、の話である。

「昨日だって散々無視しただろ!」
「昨日は忙しかったの!!」

思わぬ中学校への出陣と言い、迅に呼び出されるといい、その後の報告書といい、行きつく間もないぐらいに働いていたのである。スマホなんて、開く余裕すらなかったのだ。

「だったらせめてひと言ぐらい連絡しろよな!?」
「なんの!」
「お前、昨日俺と1対1の試合、するって約束してただろ!」
「……あれ、そうだっけ?」

目を瞬かせる。なんのことかさっぱり覚えていない。黙り込んだ私を見て、そばにいた2人組が何事かといったようにこちらをじっと見つめている。

「そうだっけ?じゃあねえよ!……はあん、さては忘れてやがったな?」
「は…ははは……ごめん」

一昨日のことをよく思い出してみる。そういえば確かにしていた。出水と私、双子で2対2をした際。出水と弟の方が互いの改善点を言い合っている中、兄の方ともう一度試合をする約束をした覚えがはっきりある。

「どう落とし前つけてくれん…っな、ちょ響…」
「もしもし、生緒?」
「ひ…響?」
「やあ、おはよう」

突然声が落ち着いた声色に変わる。この声間違いなく弟本人だ。声質的には流石双子と言ったところか、割と似ているのだが、話し手が変わったことが瞬時にわかってしまう程に、それぞれ雰囲気が違うのだ。

「俺たちは先に始めておくから、隊長にもそう言っといて」
「先に?なにを?」
「あれ、聞いてない?」

通話越しに小さく、離せ響!俺との話がまだ終わってねぇんだ!おい!!なんて喚き散らす兄の声が聞こえる。こんな様子を見ているとどっちが兄なんだろうか、と思えてくる。

「聞いてない」
「そっか、まあそのうち隊長が迎えに来るんじゃない?」
「なるほど、了解」

それと同時、三輪君と海夜の隊長コンビが教室の入り口に現れる。おお、本当に来た。「お、秀次じゃん」そう言って彼の元に駆けていく陽介の視線の先にいる三輪君は、なんだかいつもより不機嫌そうに「任務だ」そうひと言だけ吐き捨てて歩き去っていく。

「じゃあまたな2人とも!」
「いってらっしゃーい」
「おー」

出水と一緒にその姿を見送る。すると出水の携帯が突然震えだす。太刀川さんだろうか?もしかして全員駆り出されるのだろうか?ボーダー隊員が全員駆り出される、なんて今まであまりなかった出来事に、一体何が起きたのだろうかと、脳裏に不安がよぎる。

「その様子だと、来たようだね」
「うん、隊長来た」
「じゃあ、合流必要ならまた連絡して」

そうしてぷつんと音を立てて通話が切れる。一方で通話を開始した出水は、太刀川さんどうしたんすかー、と呑気に話し始めている。やっぱり太刀川さんだ。いつの間にか隣にまで歩いて来ていた隊長に一瞬驚いた。

「さっき話してたの誰からの電話だ?」
「双子、先に初めておくってさ」
「なるほど、じゃあ事情もきいた?」

その質問に、ふるふると首を横に振る。

「おけ。簡単に説明するとイレギュラーゲートの原因がわかったそうだ。その原因を駆除するためにボーダー隊員全員に出動がかかってる。まあ細かいことはおいおい話していくとして、とりあえず行くぞ」
「あ、2人とも俺も一緒に行く」

ボーダー隊員が全員出動するほどの原因とは、一体何なのか。薄っすら冷や汗をかきながら彼の話をきいていると、出水が通話を終えたのか、私の隣に並ぶ。

「貴重品ちゃんと持ったか?いつ終わるかわからないからカバンも持っていけ」
「うん、お財布もスマホもカバンも持った」
「あ、やべ財布置いてくとこだった」

さすが、オカン、ありがと!そう言って自分のロッカーに小走りで向かう出水に、その言い方止めろと顔を顰めた隊長を見て、思わず笑いが零れてしまった。

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