世界は目の前に




「なあなあ燈治、敵に回したら誰が一番怖いだろうな」
「…いきなりなんだよ」


つい先ほどまでしていた会話をぶったぎり、親友兼相棒は唐突に話しだす。
おいおい…お前はついさっきまでカレーの素晴らしさと奥深さについて切々と語っていなかったか。全部受け売りだけどという言葉で台無しだったが。
つい最後まで、しかも真剣に聞いてしまった自分が少し情けない。


「そうだなー…誰かなー…、…あ、巴さんかなぁ」
「お前な、人の話聞けって…ったく。…飛坂か…ま、敵に回したくはねぇな」


まあポンポンと話を飛ばし、突拍子もないことをいきなり言い出すのにもいい加減慣れてきた。転校初日に色々とぶちかましていたのも最早笑い話だろう。
ころころと変わる話に付き合って、同意を返してやると嬉しそうにまた喋り続ける。

「だよね!…あー、でも紙袋とかも怖いかも」
「紙……宝方?不思議ではあるが…怖いか、アイツ」

「え、だってほら燈治、四角の神秘だよ。きっとなんかとんでもない四角的な何かにやられるよ。大きい四角に潰されたり…そう、そうだよ、罰が当たったりするよきっと」

お前の発想が分からない。と言ったところでこの男にはおそらく伝わらないが。

「…おい。…罰ってなんだ罰って。どこから出てきたんだよそれ」

「え、どこ?どこかな。分かんないな。…あ…!罰って言ったら、鍵さんと鈴もそうか!あとそうだよ、白に、清司郎さんに、朝子先生に、」


こちらの話を聞いているんだかないんだか。まあ十中八九聞いてないんだろうが。
知っている名前も知らない名前も親友の口からするすると出てくる…、…どうやらまだまだ続くようだ。しかも、何やら今度は考えが煮詰まってきたらしい。
あー…だの、でも…うーん…だの言いながら首を捻っている。

ああ、こうなったらもう何か言ったところで無駄だな。




のんびりとペットボトルの茶をすする。

昼休みもあと10分程度。
それまでにこの話の結論は出るんだろうか。そして、その話はわざわざこの寒い屋上で考えるような事なんだろうか。

…いや違うか。俺が屋上にいるから、こいつはわざわざこの寒い中ここまで来て喋るんだ。

教室に戻れと言ったら、

相棒とご飯を食べるのが夢だったんだ、燈治と一緒なら戻る。

なんて話が返ってくるし。

正直よく分からなかった。
よく分からなかったが、むず痒いような暖かいような…そんな気持ちになったっけな。
…ぼちぼちと教室に居着くようになったのはそれからか…。




しばらくぼうっと考え込んでいたら、同じくずっと考えていたらしい親友が突然ハッと気づいたように顔を上げて、こちらを見る。


「あ…!そうだ!一番怖いのはあれだ!あれだよ!」
「どれだよ」


どうやら結論が出たようだ。さっきまで考えていた事はひとまず置いて、よく分からない回答にツッコミを入れる。あれ、じゃあ分からん。どれなんだ。



「燈治!」


俺か。


無駄にいい笑顔で、何で気づかなかったんだろうと呟きながら満足そうにしている親友。…とにかく、これだけは聞きたい。

「…何で、俺なんだよ」

言外に不満を滲ませつつも問う。
仮にも親友に、怖いなどと思われているだなんて心外にもほどがある。

俺の質問が意外だったのか、一瞬不思議そうな顔をしたがまたすぐにへらっと笑って語りだす。


「え、だって燈治だよ、相棒だよ?相棒が敵ってさ、つまり世界の全部が敵なのと同じだよ。それってすごく怖いなぁ」



ほら燈治、燈治が一番怖いんじゃないかな。と言う声が響く。



……、俺は…今…何か物凄く恥ずかしい事を、こいつに言われたんじゃないだろうか。



未だに意味不明な理屈をこねまわし続ける親友を尻目に頭を抱える。


微かに顔が熱く感じるのは、気のせいだとか気の迷いだとか、そういうものだと思いたい。
ああ本当に、こいつはよく分からない。








貴方は私の世界です。








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