増えるシールと遠のくゴール




鼻歌まじりに、ぺたりぺたりと一枚ずつシールを貼る。
シールにも、それが貼られていく一枚の紙切れにも、可愛らしいキャラクターが描かれていて随分と華やかだ。にこやかなキャラが紙切れの狭い空間にぎゅうぎゅうと密集していく様に笑いがこぼれる。
うん、随分と集まってきた。


「…朝っぱらから何やってんだ、球磨川」
『あ、善吉ちゃん』


誰もいない生徒会室。
そこで、一人にやにやしている僕はさぞ不可解な物に見えたんだろう。怪訝そうに此方を見る善吉ちゃんに、胡散臭いと評判の笑顔を向けて口を開いた。

『シール貼ってるんだよ』
「………シール?」

『知らない?コンビニとかのパンに付いてるシール。集めてお皿とか貰うアレ。僕、集めてるんだよね』


ひらひらと半分ほどシールで埋まった紙切れを見せながら、質問に答える。どうにも訝しげな表情だった彼は、それを見て目を丸くした。


「へー…意外だな」
『集めるの、結構楽しいよ』


景品が特別欲しい訳じゃないけれど、この集める過程は結構楽しい。まあ、毎回毎回どういう訳だか邪魔が入って、景品が手元に入った事なんてないけど。

善吉ちゃんは、ふぅん、と呟きながら台紙を覗き込む。そして、ぱちりと目を瞬かせた。

「…ん?それ見覚えが…えーと、確か…」
「…あぁ、あったあった。ほら」

やるよ。

ぺたり、ぺたり。
僕の顔の横から手が伸びて、その指はそのまま台紙にシールを貼った。そのシールをじぃっと見ながら、そのまま思ったことを口にする。

『善吉ちゃん。シール、台紙からずれてるよ』
「げ、細けぇ」

台紙のシール欄から、斜めに曲がったまま貼られたシール。右上と左下が少しはみ出てる。
細かいところだけど、結構気になるよね。


『しかも、こういうのって台紙にシールを貼る瞬間が、一番楽しかったりするんだぜ善吉ちゃん』
「…あーあーもう、俺が悪かったよ!!」


ちくしょう、そこまで言うか…!?と憤慨する彼に、オーバーリアクション気味に溜息を吐く。もちろん『分かってないなぁ善吉ちゃん』と一言添えるのも忘れずに。あはは、怒ってる怒ってる。
更に神経を逆撫でするだろう言葉を続けようとした。ら、予鈴が鳴ってしまった。
ううん残念。


「…っと、もうこんな時間か。じゃあ俺行くぜ」

ばたばたと荷物を集めた彼が、じゃあなと一言置いて部屋から出て行った。
そんな背中に言ってなかった一言。

『シールありがとー、善吉ちゃーん』

遠く離れた場所から、確かにおう、と答えが返ってきた。完全に足音が消えた後、ついついぽつりと呟く。



『……また交換出来ないのかぁ』


せっかく集めてたのにな。










だって好きな人がくれた物は、大事にとっておきたい。








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