哀訴嘆願




愛していると言ってくれ


はらはらと頬を流れる涙もそのままにして、マッドの半身に馬乗りになった賞金首は呟く。


「…愛していると言ってくれ」


低い声でそう言いながら、マッドの首に手を押し当てていた。時折、力を込めようとしてか長い指が動く。しかしついぞ絞める事はない。微かに指先が震えるだけだ。

その酷く不安定な様子をマッドは半目で見て、溜め息を一つこぼす。脅すなら脅すで、もう少し何とかならない物か。腰に下げたピースメーカーが泣いている気もする。冷静な頭でずれた事を考えた。考えながらも口を開く。


「なあキッド?」


あやす様な声色で、マッドは目の前の男の名前を呼んだ。首を絞める事も諦めて離す事も出来ず中途半端に首へ添えられた手の、その甲をゆるゆると撫でる。サンダウンがひくりと揺れた。


「俺はな、キッド。あんたが逃げんならどこまでだって追い掛けるし、傍に居着くっつうなら気分もいい。ああ、突っ込みたきゃ別に好きにしろ。構いやしねえよ。…悪くはねえ」

そこまで一息で言い切り、視線をサンダウンから少しずらして天井を見つめる。うわ意外にあんたの事好きかもな俺…とマッドは思う。だが。

「でもよ。あんたを殺すのは俺だ。こいつは変えられない。俺以外に傷付けられんのも我慢ならねえ。もしもあんたがどっかで他の誰かに殺されたなら、何としてでも無理矢理にでも蘇生させる。少しでも息を吹き返したら、今度こそ、俺があんたを殺すぜ」


ざらついた傷の多い手を指先でいとおしそうに撫でながら、遠くに投げていた視線をサンダウンの顔へと戻す。


「なあ。これを愛って呼ぶのは、無理があるんじゃねえの?」


サンダウンの目玉が揺れた。
無理などと、そんな物が聞きたい訳ではない、掠れた声が訴える。


「キッド」


名を呼べば、苦しそうな嗚咽が漏れた。それに小さく声が混じる。


あいしているんだ
あいしてほしいんだ
それを あいとよんでくれ


「……俺の話、聞いてたか?」
「聞いていた」

「俺はあんたを殺したい」
「ああ」

「キッド。それでいいのか」
「ああ。それがいい」


軽い押し問答を繰り返した後、ついにマッドが折れた。
面倒になったのかもしれない。


「……愛してる?」
「…………もう一度、頼む」


酷く真剣な、感極まった様な表情でそんな事を言うものだから、また同じ言葉を告げる。しかし何度繰り返しても、言い方を変えても、サンダウンは、もう一度と強張った。


「…厄介だな、あんた」


その内、呆れた様な調子でマッドはそう一言投げ掛ける。
それを聞いても、サンダウンはどうにも幸福そうに笑っていた。





それでは願いに応えまして、狂気も愛と呼びましょう







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