癪の種




なあキッド、どうしてだ?

どうして5000ドルの賞金首が、あんな、駆け出しのペーペーなんかに傷つけられんだよ。



ん?痛ぇ?…ははッ
……痛くなるように抉ってるに、決まってんだろ?こんな傷、付けられやがって。


…こんな、傷。
サンダウン・キッドが、あんなガキに付けられる筈、ねぇのに。


あー…、クッソ……イラつくなッ…!
しかもだ!あの野郎、よりによって俺の近くで、何て言ったと思う?

オレはあのサンダウン・キッドに傷を負わせた、次こそは絶対撃ち殺してやる。って言ったんだぜ?


…俺はなァ、キッド…。自分の獲物を横からかっさわれるのが、大嫌いなんだよ…!


あんたを、殺すのは俺だ!
あんたを捕まえるのは、俺だ!!
あんたのその首、他の誰か、なんぞに!渡すつもりはねぇ…!!




…………あァ?あいつ?
ハッ…何だよ、気になんの?


残念だけどなぁ。
あいつがあんたの前に顔見せる事は、もう二度とねぇよ?



…ちゃんと聞いてんのか?キッド。
……っと、…流石に血ぃ流しすぎたか?…これで死んじまったら、ホント笑い話にもなんねぇな。



なぁ、キッド?
もう二度と手ぇ抜いたりすんなよ。
俺が殺す前にどっかでくたばったら、ぜってぇ許さねぇからな?








マッドの話が、いつまでも聞いていたい、甘さと苛烈さを含んだ声が、徐々に遠退いていく。
と、同時にぐちりと傷口に埋め込まれていた指が離れていった。器用に銃を扱う指が、手が、赤色に染まっているのが見える。

マッドは赤が似合う。
己の血でも、マッドの手に付いたそれは綺麗に見えるから不思議だ。


ああマッドの黒い黒い目が、真っ直ぐ私を映しているというのに、自分の意思とは関係なく瞼が落ちていく。
星のない夜の様な、とても綺麗な黒なのに。見られない。…なんて、勿体無いのだろう。


だが今日は、マッドの逆鱗に触れた、私が悪い様だ。ならば仕方がない。


意識が完全に沈み込むまでの一時、回らぬ頭でゆるりと考え事をした。


どうしてだ、とマッドは言った。
どうして別の賞金稼ぎなどに手傷を負わされたのだと言った。

何故。理由。ああ、理由は簡単だ。


あれは、私の前に初めて現れた時のお前にほんの少しだけ似ていた。


そのせいか、判断が鈍った。
それだけの事。



そう言ったら、マッドはどう反応するのだろう。目覚めた後も、マッドがこの話を続けていたら、言ってみようか。









捕まえるのも殺すのも自分だけでいい。








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