撫でる人




「撫でてくだされ」
「………」


目の前の、シノビという職らしい少年が実に唐突にそう言い放った。

「撫でてくだされ」

思わず何も言わずに見つめると、再度同じ要求を述べる。

「…他の者に頼むといい。そうだな…高原辺りはどうだ…」

それに対し、さりげなく押し付ける形で他の人物の名を出す。悪いとは思ったが、カラリとした気性の彼ならばあっさり引き受けるだろう。私よりは適役の筈だ。


「…高原殿は…力加減の問題か、数分持たずに髪と首が悲鳴を上げたでござる」

首がもげるかと思い申した。と呟いた時の目は嫌に達観していた。実行した後であり玉砕もしていたらしい。


「………ユンならどうだ」


人の良さそうな笑顔が頭に浮かんだ。あの少年なら、おそらくは二つ返事で承諾するだろう。首をもぐ様な勢いで撫でるとも思えない。


「ユン殿は…それはもう優しく、優しく撫でてくださった。しかし、その手はあまりに小さく…!むしろ慈しむべき童に、拙者は何て甘えた事を頼んでしまったのか…!」

…罪悪感で胸が潰れるかと…!と叫ぶ姿を見ながら溜め息を一つ吐く。実に難儀な事だ。


「サンダウンどのー…何でもいいから撫でてくだされー…」


他の誰かというものに心当たりがない上、こうも生気のない瞳で言われたら仕方ない。更に溜め息を重ねつつ、頭に手を置き癖のある髪をかき混ぜる。何回か往復させた時、おぼろ丸はぽつりと一言洩らした。

「…違うでござる」
「……何?」

「違うでござる!坂本様は!もっと労る様にッ小動物を愛でるかの如く撫でまする!そんな、撫でときゃいいかみたいな、ぞんざいな物ではござらん!!!」


カッと見開かれた目は本気だった。体が思わず固まった。お前が何でもいいから撫でろと言ったのではなかったか。なんというこだわり。



「………」
「…………」


「…申し訳ござらん」
「いや…悪かった」

「…うぅ…坂本様が足りぬ…」
「……そうか…」




おぼろ丸の頭に置いたままだった手を軽く動かしてわしわしと撫でれば、坂本さまー…と小さく泣き言が聞こえた。





ルクレチアより心からの寂しさを







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