エスパーとすっとぼけ |
昔、心を読む妖怪の話を聞いたことがあった。 親だったか友達だったか、誰に聞いたのかはちょっと思い出せないが、心を読むってのは間違ってないはずだ。多分。 とにかくそれは、小さい頃に聞いたおとぎ話だった。それこそ今までずっと思い出さなかったくらい、普通によくある不思議な話。 話の内容自体はぼんやりと思い出せるのに、オレはどうしても思い出せないことがある。 …あの妖怪の名前って、何だっけ? と、思い出すきっかけになったアキラを見ながら考える。歩く度に固そうな金髪がひよひよ揺れていてちょっと面白い。 カッパとか座敷わらしとかそんな感じの妖怪っぽい呼び名が、あの妖怪にも何かあったはずなのに思い出せない。どうにもこうにもすっきりしない。 うっすらと覚えてるのは、ええと、確かそう…さ、さと…さー… 「あー……さとる?」 と呟いたら、前を歩いていたアキラが立ち止まって微妙な顔をこっちに向けた。 「いや、アキラだ。おいおい…ついさっき自己紹介したばっかじゃねーか」 「…うーん」 さとるは違うな。言葉にしたらすごい違和感があった。でも少しは近い気もする。 「さとし…」 「だからちげーよ。アキラだ、アキラ」 「さとみ?」 「何でだ。人の話聞いてんのかよ、アキラだっつってんだろ!」 違う。全部違う。何だっけ。何だっけかな。出てこない、思い出せない。 さとる、さとし、さとみ、さとこ、さとろう。さとるが一番近い気がする。でも何かが違う。何だ? さと、さとー…、あ。 「さとう!」 「いや田所だしよ。名前はアキラだしよ。一体何聞いてどう考えたらそうなるんだ」 さとうは何だかシンプルすぎた。 …もうちょっと、もう一ひねり必要かも知れない。 「さとれ…?」 「…何をだ!?考えをか!?」 ひねりすぎた。やっぱ違う。そのままうんうん唸っていたら、じゃあ遠慮なくとアキラはめんどくさそうに言った後、不思議な色の目でこっちを見た。お。 「おおぉ、目が変わった!」 「…何で喜んでんだ…」 いやだってこれ不思議だしキレーだし。何かいいモン見たーって気がする。 しかし、何で急に?あ、さとれって言ったからか。そういう意味じゃなかったんだけどな。まあこれはこれでいいか? うん、そうだそうだ。最初からアキラにも聞いとけばよかった。聞くはなんちゃら、聞かぬはなんちゃらとも言うし。 「あれだよあれ、ほら、何だっけかな。さと…ナントカみたいな感じの奴いたよな?何だっけ名前」 「…………」 途端にアキラは渋い顔をする。ありゃ、これは伝わってねーな。 伝わるかアホとか言われた。ひでー。 「えーと、言わなくても伝わるこういう感じのだな、以心伝心みたいなよ。今みたいな。…あれオレ今喋ってんな…」 「……サイコメトリー?」 「ん?うーん。違うな、何か惜しい、そういうの使うヤツで、さと…ナントカだよ」 「……さと……さとー……サトリ、とか?」 「…それだ!!」 さとり!サトリか、そうだ、そうだった。それだそれ! 「あーすっきりしたー」 「…あ、そう…」 そんだけ?と聞いてくるアキラに、そんだけだな、と返したらやけに深いため息を吐かれた。 お前といるのは疲れそうだと心底呆れた口調でアキラは言う。けどまあ、口元は笑ってたし、そこまで怒ってなさそうに見えたからいいか。 思考を読んでも意味が分からない |