小さい頃の思い出は




ストレイボウと他愛ない話をしながら、のんびりと歩く。
あちこちに花が咲いてあったりして、何だかとても幸せだ。

小さな子供が二人、笑いながら私達の横をすり抜けて走っていった。女の子と男の子。姉弟かな。あの子達はどこの家の子だっただろう。わいわいと楽しそうに走る、微笑ましいその様子に思わず笑みがこぼれた。元気だなぁ。

先を行く女の子の声が、どこか懸命な響きで辺りに広まる。


「…だからね、きっとあまい味がするの!だって特別なことだから!一生に一回しかないのよ!」
「えー…でも口だよ?あまいかなぁ」

「た、たぶん。そうよ、本にもファーストキスはレモン味って書いてあったもの」
「…レモンってあまい?」


話している内容も何だか可愛らしくて、悪いと思いつつもついつい聞いてしまった。楽しそうに大騒ぎしながら喋っている子供達を見つつ、ストレイボウに話しかける。


「あはは、元気だね」
「…………」


返事がない。
あれ?と首を傾げつつ、隣へと視線を向ける。そこにいたストレイボウの顔色は悪かった。そして、何故だか足早にそこから離れようとする。


「え、…ど、どうしたの!?」
「何でもないッ」

「ストレイボウ!?顔色、顔の色が何だか青い!」
「何でもない、何でもないんだ」


何でもない、しか言わなくなった親友が怖い。
何故だろうさっきまでは普通だったのに。一体何があったのだろう。
さっきの子供達が原因?元気な子達で。会話は確か、ファーストキスがどうとか。レモン。味。


ふぁーすと、きす。
あれ。私のって。






『……オルステッド、薬はちゃんと飲まなきゃだめだ』
『…にがいから、やだ…』

『わがまま言うな。病気なんてはやく治して遊びたいだろ?』
『そう、なんだけど』

『じゃあはやく飲んで、はやく寝る』
『…うぅ…分かってる、分かってる…けど…』

『……しょうがないな。口、そのまま開けてろ』
『?』

『……』
『…?あれ、ストレイボウ、かわりに飲んでく、っ!』


『…ぅ、…うえぇ…にがいぃぃ…』
『がまんだ、がまん。俺だってにがいんだから。ほら、水』




「………ファースト、キス……」


ひくり、とストレイボウの顔が歪む。自分が何だか泣きそうになっているのにも気づいたけれど、どうしようもない。

「…………」
「………………な、なおり草…味…?」


少し震えてしまった声でそう言えば、ストレイボウは無言で顔を背けた。





小さい頃の思い出は優しいだけとは限らない








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