マッドが愛しているなどと言い出すので




サクセズタウンにて、黙々と罠に使える物を探す途中。
隣で同じく箱をひっくり返していたマッドが、唐突に愛しているなどと言い出した。時が止まる。頭が真っ白になった。聞いた瞬間、思わず右手に持っていた人参を彼の口にぶち込んだ。

「ぅごッ!?」

可哀想な声が聞こえた。マッドの黒い目が見開かれるのも見えた。
慌てた私は右手の人参を彼の口に捻じ込んだまま、更に左手でマッドの首の後ろを固定していた。困惑を含んで上げられていた唸り声に、怒りの感情が混じり始める。

気が付いたら、完全にマッドの動きを抑えている。
暴挙だ。私は何をやっているのだろう。

酷く辛そうなのだから、早く手を離すべきだ。
しかし、愛などという口は塞いでいた方がいい様な気がする。いやそもそも、ぶち込んだ後に思う事ではないが、本当に「愛している」の対象は自分でいいのだろうか。うっかり言葉の前後を聞き逃しているかも知れない。
もしかすると対象は、酒場にいた金の髪が美しく気の強いあの娘の事ではないのか。正直、これで人参を愛しているという、斜め上の着地をされたら私はどんな態度を取ればいいんだ。

「…ご、ぉおおおッ…」


私の思考が意味の分からない心配までもをし始めていた中、マッドの口には勿論人参が入っていた。

「うぐ…ぐ、…がぁ!!」

ひとしきり苦しそうに訴えた後、無駄だと悟ったのか唸りながら勢い良く人参を噛み砕いた。口に残った人参の端を忌わしそうに吐き捨てるマッドを見ながら、マッドは…顎が丈夫だな…と馬鹿な事を考えていた。そして彼は軽く咳払いをし、口元を拭うと強く睨んでくる。野生の生き物だ。


「…キッド…何だこの意味分かんねえ行動はッ!!ぁあッ!?もっと普通に、嫌だとか、気持ちが悪いだとか、失せろだとか、そういうのを素直に言えよ!」
「……いや、その…」


嫌な訳でも、気持ちが悪い訳でもないから、慌てているのだが。
もう一度言われて、つい嬉しくなってしまったら私はどうすればいい。もう既にその兆候が表れているというのに。
威嚇しながら果敢にも吠え続けるマッドを前に、内心困り果てながらそう思った。






サンダウンのデレが分かりにくい








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