これは何ですか




不自然な程に心臓が早まる。
動悸に邪魔されてどうにも呼吸がしづらい。とにかく、落ち着こうと息を吐き出せば、 嫌に熱のこもったため息になった。


何でだ。
どうしてこうなった。
訳も分からず、自称西部一の賞金稼ぎは無性に泣き出したくなった。







「…キッド!」

いつも通りに待ち伏せをされて声をかけられたところで、マッドが不自然に固まった。
言葉を探す様に言い淀む、そのおかしな様子にサンダウンは首を傾げた。帽子に隠れた顔付近を訝しげに見ながら、引き続きマッドの話に耳を傾ける。


「あー…その………ま、また会ったな?」

マッドが心底考え込んで、そして出てきた物は何とも緩いそんな言葉だ。語尾が不自然に上がる事により、疑問系になっている。馬から降りる姿も微妙に固い。


「…そうだな」


返事をすれば、マッドがびくりと身体を震わせた。

意味が分からない。
先程の台詞に、何か慌てさせる要素があったとは思えないのだが。軽く思い返してみても概ねいつも通りだ。何より、私は一言しかいっていない。


「……マッド?どうした?」

あ、だの、う、だの、ただの音にしかなっていない物がマッドの口からこぼれ落ちる。
いよいよ持って不可解だ。ふと見れば微妙に垣間見える彼の顔や首、耳までもが赤いのに気がついた。
ああなるほど。ようやく合点がいく。体調が悪いのか。


「マッド、…帰ったらどうだ」
「な、」


ばっと勢いよく上げられた顔は泣きそうに歪んでいる。先程まで赤くなっていたのに、心なしか今は色も青い。
やはり体調は芳しくないようだ。


「…具合が良くないのだろう…?」
「……ッ!」


赤くなり青くなった顔色は、また赤くなった。実に忙しい変化をマッドの顔色はしている。彼は、ふらふらと降りたばかりの馬に近づいた。キッドが俺の心配してるとか何だそれ何だこれ無理もう無理心臓いてぇと聞こえてくる。
ああ、無理はしない方がいい。


「…今日は!これで帰るが、…また来るからな!」


彼は何のために来たのだろう。


「治った頃ならな」
「、今度は逃がさねぇからな!!その辺の賞金稼ぎなんかにゃ取っ捕まんなよ!」




けがだの病気だのも、してんじゃねぇぞ、とぼそぼそと言いながらマッドは馬に乗る。賞金首に平然と背中を見せる彼が少々心配になり、お前もなと呟いておいた。その声が届いたのか、馬を走らせるマッドの頭が不自然に揺れる。


「……大丈夫…か…?」


本当に。
あれは相当具合が悪いのだろう。
いやしかし元気に叫んでいたな…。首を捻りながらも、サンダウンは愛馬の背に乗り直した。








これは何ですか。
恋だとでもいうのですか。







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